233号(2016年12月)8ページ
『実習生便り』
教員の十年経験者研修の一環である社会体験実習で、3日間お世話になった。この研修は、自分の好きな団体・企業に行くことができる。要は、相手が受け入れてくれさえすればいいのである。 この研修。私は、昨年度から「日本平動物園に行きたい。」と思っていた。と言うのも、動物が好きで、一度飼育員の仕事を体験してみたいと思っていたからである。さらに、動物園の飼育の裏側など普段絶対に見ることができないであろう現場を一度この目で見てみたい、というのも日本平動物園を選んだ理由だ。
さて、初日の朝、担当のKさんと出会った。聞けば、「は虫類館」と「レッサーパンダ」の担当らしい。担当の動物を聞いた瞬間、ギクリとした。なぜなら、前述したように動物好きの私であるが、「ヘビ」だけはどうしてもダメなのである。どのくらいダメかと言うと、TVや図鑑はもちろん、ホースや縄も苦手である。親戚全員ヘビがダメなのである。つまり、DNAレベルでダメなのである。実習前日、職場で「は虫類館だったらどうします?」と同僚と話したのを思い出した。そのときは、「まさか数ある動物の中で、よりによっては虫類があたるわけがないだろう。」と高をくくっていた。そのは虫類館が見事当たったのである。 やさしいKさんは、「は虫類とか、大丈夫ですか?」と気遣ってくれた。この実習は、自分からお願いした上に、実習生を受け入れる以上、先方に多大なる迷惑をかけることがわかっているので、「もちろん大丈夫です。ちょっとヘビは苦手ですが、がんばります。」と、強気で答えた。内心、ビクビクである。
午前中、レッサーパンダの餌やり、そうじ、トカゲやカメの餌やりをやった。このあたりは自分の思い描いていた憧れの飼育員の仕事で、幸せな時間を過ごすことができた。Kさんも、手際の悪い私をやさしくサポートしてくれたり、忙しい中、他の動物のところへ連れて行ってくれたりと、大変ありがたかった。
そして、運命の午後が来たのである。バックヤードにいるヘビの箱を洗う仕事だ。一度説明を受け、あとは自分が行う。Kさんは、別の場所で別の仕事を行うということだ。つまり、1人で残った10匹以上のヘビの箱を洗うのだ。もう涙目である。このときは担当さんがいなくてよかったと思う。いたらKさんの手をきっと今以上に煩わせてしまったであろう。教えられた通り、ヘビをつかんで別の箱に入れようとした。が、どうしても箱に手が入れられない。箱に手を入れた瞬間飛び掛ってくる、という映像が頭をよぎっていた。さてどうしよう、とおろおろしているうちに、箱からヘビが逃げ出そうとしていた。それは絶対にやってはいけない。意を決して、エイ!とヘビをつかんだ。そして、素早く隣の別の箱に入れてふたをした。ついにやったのである。33年間生きてきて、初めてヘビをつかんだ。もううれしくて、天にも昇る気持ちだった。1匹、2匹とそうじが進むにつれ、ヘビにもだんだん慣れてきた。たった1日で、私は別人に生まれ変わった気分であった。初日の最後、Kさんに打ち明けた。ヘビがまったくだめだったこと。しかし、この機会にヘビを克服したこと。そして、この機会が無ければ、おそらく一生ヘビ嫌いでヘビを触らずに人生を終えていたであろうこと。33歳になっても、苦手が克服できた経験は、私に「やればできる。」という勇気を与えてくれたのであった。
とまあ、ヘビを触れた感動があまりに大きすぎてたくさん書いてしまったが、教員の研修ということなので、3日間で学ばせていただいたことを書かなければ、とも思う。
担当していただいた初日・2日目のKさん、3日目のIさんともに、動物の観察力が鋭く、それぞれの個体の性格、クセ、個性を熟知した上で飼育に当たっていた。動物には言葉が通じない分、こちらがその個性に合わせるしかないのであろう。餌の量や種類、気温や水温、湿度などの住環境など、その全ての歯車がかみ合って、健康に動物たちが暮らせる。逆に言うと、少しでも歯車が狂えば動物たちは死んでしまうのである。そのギリギリの毎日を飼育員の方々は、確実に仕事をなされているのだ。私が相手にしているのは、人間の子どもたちである。やはり、全ての子どもたちに個性がある。全ての個性を把握し対応することは難しいが、改めて個に対することを見直す機会になった。また、飼育員の方々のプロ意識の高さを感じた。常に学び、新しい飼育に挑戦する姿に、自分の同じようなプロとしての意識を再確認することができた。
動物園での実習は、今後二度とできないような大変貴重な体験となった。動物園の仕事は、すばらしい仕事だと思った。最後に、担当をしてくださったKさん、Iさんはじめ、所員の方々に感謝の意を表し、実習便りを締めたいと思う。3日間、ありがとうございました。