258号(2021年02月)4ページ
飼料担当の勝手にエサトーク
皆さん、こんにちは。昨年から流行している新型コロナウイルスにより、少々窮屈な日々ですが、皆様はいかがお過ごしでしょうか。今年は丑年という事もあり、「ZOOしずおか」90号でも、ウシにまつわる特集が組まれています。
私もウシ亜目(ウシに比較的近いグループ)の角について特集記事を書かせていただきました。ですが、角のみでは語り足りません。実は、学生時代キリン(ウシ亜目の一種)を研究していたこともあり(かじる程度ですが)、大のウシ好きでして…。とはいえ私は飼料(エサ)担当。そこで、エサを絡めてウシのお話をしたいと思います。
さて、ウシ亜目は鯨偶蹄目(ラクダ亜目、イノシシ亜目、ウシ亜目、クジラ亜目、カバ科で構成される非常に広いグループ)に属す、地球上で最も繁栄している草食獣のグループです。その数なんと6科164種。同じく大型草食獣の多い奇蹄目は3科(ウマ科、サイ科、バク科)20種。差は歴然ですね。さて、この差はどこから生まれるのでしょうか。
そのカギが「エサ」にあります。彼らは「複胃」と呼ばれる胃袋を持ちます。マメジカ科など例外はあれど、基本的には4つの胃で構成されます。
まず「第一胃」と「第二胃」。ここではたくさんの微生物が共生しています。これら微生物が作る分解酵素により、食べた植物の繊維を分解し、さらには「反芻(はんすう)」という行動を行い、胃の中の繊維を口に戻して粉砕し、微生物と繊維をよく混ぜ合わせます。これにより生成された揮発性脂肪酸(VFA)を吸収し栄養とします。
ちなみに、当園でもアメリカバイソンのモモをよーく観察すると口をモゴモゴ…。これが「反芻」です。面白いのが、反芻は呼吸と同じように反射行動なので、意識しなくても勝手に口に戻っちゃいます。頑張って「うぇぇ…」って戻すわけじゃないそうです。
次に来る「第三胃」には、無数のヒダと乳頭(でっぱり)があります。これにより脱水と仕上げの粉砕を行います。
最後の第四胃は、ヒトとほぼ同じ機能をもつ胃袋です。胃液を出し消化・吸収するのですが、消化・吸収するのは「繊維」ではなく、繊維を消化し増えた「微生物」。繊維で微生物を育てる→微生物を分解するという流れで、栄養を得ているのです。
一方、奇蹄目の仲間の胃袋は1つだけ。その代わりに盲腸を肥大化させ、そこで微生物発酵を行います。お尻の近くでは反芻もできませんし、すぐに体から出ちゃうので、吸収効率が悪いのです。
さて、ここから氷河期の終わりにタイムスリップ。この頃は「森林」が衰退し、「草原」が広がるようになりました。木の葉に比べ、草(イネ科)は消化しづらかったために、それまで繁栄していた奇蹄目にとって草原という環境は少々厳しく…。その隙に、ウシ亜目は高機能な消化器官を使い、草原にも適応したのです。
日本平動物園でも、ウシ亜目の多くにはチモシーと呼ばれるイネ科の草を与えていますが、一部は園内で採取した木の葉を与えるウシの仲間もいます。実はウシ亜目にはキリン科のように、草だけではなく樹木を採食することに適応した種類もちらほらいます。そういった動物たちに長い年月イネ科ばかり与えていると、悪影響がでる可能性があるのです。
昨年発行の「でっきぶらし(254号)」に、「ぜひエサにご注目ください」と書きましたが、興味のある方は、「乾草」にも注目してみて下さい!
(髙橋 勇太)