でっきぶらし(News Paper)

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哺乳動物繁殖ベスト10 〜個体別の部〜

2号に記載しました“哺乳動物ベスト10”の感想はいかがでしたか。シカが意外とか、ミーヤキャットが意外に出産しているとか、それぞれ反応はさまざまでした。
ヤギは、どうなっているのと聞かれ、「いれてないよ」では、説明不足で申し訳ありませんでした。家畜の中のヤギ・ウサギ・テンジクネズミは、増減を管理している動物のためはずしました。入れておれば、恐らく1・2・3位を占め、ちょっとしらけた結果になったことでしょう。

さて、総合ベストに続き、それでは1頭1頭では、どのくらい出産しているのだろうか、どのように入れ替わるのかを楽しみに、個体別ベスト10を組んでみました。

<哺乳動物出産ベスト10・個体別の部>
(出産回数) (出産数) (成長数)
第1位 トラ 10 30 29
第2位 ミーアキャット 8 29 8
第3位 ヌートリア 5 20 13
第4位 クロクビタマリン 10 16 8
第5位 ヒョウ 8 16 5
第6位 ライオン 4 15 13
第7位 ワタボウシパンシェ 8 15 8
第8位 クロヒョウ 7 13 6
第9位 タヌキ 2 8 6
第10位 バイソン 7 7 6
第10位 マントヒヒ 7 7 6

(注)
バーバリシープは15頭内外、ホンシュウシカは10頭ぐらいは出産していると思われますが、個体の区別がはっきりしないため外しました。

第1位には、やはり当園自慢のトラ。2位のミーアキャット、わずか1頭の差でした。続いてヌートリア、クロクビタマリン・・・。1度に複数の出産力を持ち、しかも妊娠期間の短い動物がほとんどでした。
このベスト10の中の変わり種は、何と言ってもマントヒヒ。2号で述べたように、真猿類は常識的には、2年に1度の出産、放出される昭和50年4月までに、7頭の出産はどう見ても不自然です。そのからくりは、生まれても捨てる、捨てるからすぐに妊娠するを、繰り返したところにあります。全く世話のやけたマントヒヒでした。煮て食べるなり、焼いて食べるなりどうぞと言う調子で、次から次、チョウスケ・チョウジに始まった名前もその内、オワリ・トメ・もう沢山と言う気持ちが聞こえてきそうですが、今は懐かしい思い出となりました。
草食獣では、アメリカバイソンが唯一健闘と言ったところでしょうか。開園当初、思いもよらない狭いすきまから、ぬけ出しては園内を散歩?するほど小さかったのが、すくすくと成長、昭和48年のメリーの出産に始まって、昭和55年までの間に7頭、内6頭が無事に成長しました。最近は、もう年なのか!出産の声が聞かれなくなりましたが、大型草食獣で、比較的妊娠期間が長いことを考え合わせると立派、よく産んでくれました。

「涙を飲んだ動物たち」
いいことばかり書いて、失敗、どじには知らん顔している方が、気は楽なものです。それでは、私たち飼育係の技術の向上はあり得ず、又、確かな情報を与えているとは言えません。ざっくばらんに言えば、動物園を訪問して、あるいは来客があった時、聞きたい事も、こちらがする話も、どちらかといえば失敗や、どじの話が参考になります。実際、自慢話を聞いても面白くないし、あまりためにならない。気さくに話す、ありのままの話の方がはるかに有益である。
当園にも、まだまだ出産に導けず、導いてもすぐ死亡してしまったり、流産させたりして、忘れ去られていく動物がいくつかあります。そこで、少しばかり“涙を飲んだ動物たち”にスポットをあててみました。

[ホッキョクグマ]
昭和55年11月28日、床面が血で汚れており、メスがそわそわして様子がおかしい。どうも出産したらしいが、食べてしまったようだ。残念に思いながらも、昭和56年11月21日再びチャンスが訪れました!が、又も食殺。前回よりましと言えば、せめて仔の形だけでも見ることができたことでしょう。
極地に住む動物を飼育することのむずかしさ、この暖かい静岡では、出産に導けただけでも進歩でしょうか。

[ラクダ]
今年こそ妊娠しているらしい、乳頭が大きくなってきたぞ!陰部が変化してきたぞ!心なしかお腹が少し大きくなったようだ。そんな事を言っては空振り、思惑ばかりが先行していました。
昭和55年4月21日、待望の赤ちゃん誕生、バンザイ!の喜びも束の間、興奮して落ちつかない親に、首を唐ワれたらしく、立ち上がることもなく・・・。
今年こそ、産んでくれるだろうかと期待でいっぱいです。

[ムネアカタマリン]
ジェフロイタマリンに替えて飼育。小型サルの仲間、クロクビタマリン・ワタボウシパンシェ等に続いて、出産を期待されたものの、流産を繰り返すこと2回。無念としか言いようがありません。今年こそ、三度目の正直が成るでしょうか。

[ポニー]
マミー(オスの愛称)ほど交尾の下手な動物はいないでしょう。「なにせ、手伝ってやらなくちゃできないのだから、全くしょうのない奴だ。」とは、前担当者の言葉。そんなポニーも妊娠したことがあります。期待しておりましたが、残念ながら、流産に終わってしまいました。

[ナマケグマ]
昭和55年12月24日死産、がっかりしていると、25日も出産。何とか無事に育てようと、人工哺育にしました。すくすくと育っているように見えても、小さな命は、ちょっとしたアクシデントにももろく、あえなく昇天。育てることのむずかしさを、改めて教えられました。

[チンパンジー]
悔しさの主役と言えば、チンパンジー。
昭和55年11月、待望の出産を迎え、あまり上手ではない育児ぶりに、はらはらしながらも、順調に育ちほっとしていました。その喜びも昭和56年3月、類人猿をおそったカゼが仔にも感染。手当てのかいもなく、はかなく散っていまいました。次に、もう1頭のメス、デージーが妊娠し、今度こそはと夢をふくらませていましたが、57年1月4日に流産して2度もがっくり。それだけなら、まだ我慢もできるのですが、最初に出産したパンジー、それ以来、全く交尾をさせません。オスもイライラ、担当者もイライラ、期待はデージーだけに!

この他、まだ出産が期待されながら、その気配が全くない動物に、ウンピョウ・カワウソ・ブラウンキツネザル等がいます。ハクビシンのように、産んでいるのではないかと思えても、絶えず証拠隠滅をしているようで、何とも言えないような動物もいます。
次回は、先項キリンの徳子も、失格ママの仲間入りしたことから、過去13年間の欠陥ママワースト10を組んでみたいと思います。
“お楽しみに!”
(松下憲行)

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