26号(1982年04月)6ページ
動物の目 〜私だって動物 印度錦蛇〜
私はインド国籍、日本の徳山動物園生まれでもうじき11才。昭和46年8月9日から、この日本平動物園でお世話になっている。来た時は、体長70cm、体重250gの可愛い赤ちゃんだった。
私には、名前がない。「オイ、コラ」と呼ばれている。私だって、となりのレッサパンダのタンタンのようなすてきな名前で呼ばれてみたい。「トシちゃん」「マッチ」でもいい。この色彩といい、このスタイルといい、よっぽどみりょくてきだと思っているのに!
毎日、毎日背中を丸め、重なり合って寝ている。おかげでヘビ背にはなるし、腰痛には悩まされるし、大変だ。たまには伸び伸び、裏山でもジョギングしたいが、鍵のかかった部屋からは、1歩も外に出る事ができない。そのせいか、体重80kgに近く、少々肥満気味である。
私の前を通る人の顔ときたら、目を細め、顔をしかめ、口をへの字にしている。私を何だと思っているのか?前日の日曜日、いつもの様に昼寝をしていたら、窓ガラスをドンドンたたく音にビックリして目が覚めた。野球帽をかぶった、わんぱくっ子。私を見て、「少しは動け。」だって。「君達の都合の良い様には動かないよ。」と言ってやりたかった。でも好奇心を身体いっぱいに表わして、ジィーと見ている姿にはそう悪い気はしなかった。
先日は、いつも冷静な私も頭にきた。仲間の皮を剥いで作ったハンドバッグを、持って歩いているおばさんがいた。私の前を通る時ぐらい、かくしてくれてもよいのに!
私達の仲間のほとんどは性格もおとなしく、人が近づくと逃げ出す位だ。それなのに、アオダイショウ君からの便りだと、土手で昼寝をしていただけで石を投げられ、棒で追われて重傷を負ったとか。干してあった布団の上で、ついうとうとしていたら、“ギャーッ”と続いて、ステテコのおじさん、長い竿に煙草をつるし煙で追い出すつもりか!その真剣な顔を見たら、しばらく逃げるのも忘れて、笑ってしまったとか。これはまだ笑い話で済むが、マムシくんは好きでもない焼酎に漬けられ、シマヘビくんは缶に入れられむし焼きにされ、成仏したという悲報も多い。
外見だけで、好き嫌いを決めてしまわないで、他の動物の10分の1でもいい、暖かい気持ちで見守ってほしい。今度、動物園に来たら、ぜひ私の所へ立ち寄って下さいね。首も身体も長くして待っています。