でっきぶらし(News Paper)

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動物園の一年 〜昭和56年度 PART?T(前半)〜

桜吹雪も終わり、かわってツツジ、サツキが満開。春らんまんから夏に移ろうとする、動物園の5月は賑やかです。幼稚園・保育園・小・中学校の団体、その中に混じる子供連れの夫婦、若い二人、のんびりと歩いているお年寄りなど、賑やかさが溢れんばかりです。

そんな賑やかな人声の聞こえる動物園は、全く平和で動物の喜びも悲しみも、なかなか感じられません。しかし、この1年(1981・4〜1982・3月)を見ただけでも、多くの動物の出産があり、死がありました。鳥獣の寄贈保護も相変わらずの忙しさです。来園して新たに展示された動物もいます。10月の薬物中毒事件等、動物病院がおおわらわの天手古舞いになったこともありました。
平々凡々に過ぎたように見えても、その中には、実に多くの悲喜こもごもの出来事が、横たわっているのです。話したくないこと、触れて欲しくないこともありますが、失敗したことをしっかり見据えておいてこそ前進があるものです。その悲しい思い出にも触れて、この1年の主な出来事を、紹介してゆきたいと思います。

[4月 〜コンドルの産卵・他〜]
「ロバが産まれたよ。」は、フーンと言う感じで聞き流されてしまいました。この日は、日本平動物園では初めての経験、コンドルが産卵したのです。
スワッ!天下の一大事とばかりに、皆の目はコンドルに集中しました。かしましく響くシャッターの音。隣のハゲワシまでがそわそわしだし刺激を受けて、3日後に連れ合いもないのに産卵しました。無論、無精でかえるはずもありません。
野生では、7分3分の割合いぐらいで、オスが抱くと言われています。しかし、当園では逆でほとんどがメスが抱き、その内、オスが近づいて来ると追い浮、ようになってしまいました。そんな変な現象が続く1ヶ月余り後、卵は割れてしまい、残念ながらふ化には至りませんでした。
他に、バイソン・クロクビタマリンが産まれ、出産の方はまずまずのスタート。が、悲しみもあるもので、子供動物園で10年近く飼育されていた、スミレコンゴインコが肝硬変で死亡。つき合いの長い動物が死ぬの辛いものです。その動物舎の前を通る時、ふと生前の元気な姿を思い出したりすると、どうしても目頭があつくなってきます。

[5月 〜コクチョウの格闘死・他〜]
コクチョウが咬み殺されているの一報に、私たちは、一様に驚きの表情を隠し得ませんでした。又、夜中に犬が侵入してやったのか、野犬への恐怖が甦ってきました。と言うのは、最近こそ野犬の被害は減ったものの、開園当初は、猫共々侵入しては大暴れ、ヤクシカを始め、多くの動物を咬み殺し、私たちに被害と悲劇を与えておりました。池の周囲をうろつき、コクチョウを殺したのは誰だ。犯人(獣)を割り出すべく、足形を取ろうと石こうをまいてみました。
動物園の周辺は自然が豊富です。人の気配がなくなった頃、キツネやタヌキ、あるいはアナグマが出没しても何ら不思議はありません。そう、犯人(獣)は犬ではなかったのです。石こうの足形から判明した犯人は、タヌキでした。この憎いタヌキはなかなの利口者で、捕獲しようとした罠にもかからず、逃げおおせてしまいました。
コクチョウは、元来非常に気の強い鳥です。池をしっかりと自分の縄張りにしてしまうと、飼育係にさえ向かってきます。今回の事件は、その気の強さが災いした悲劇と言えるでしょう。
他に5月の出産を見ると、ブラッザグェノン・バーバリシープ・ホンシュウシカが産まれました。この中で、ブラッザグェノンは3年連続3頭目、前年産まれたのは7月10日、妊娠期間は7ヶ月で、予想よりはるかに早い時期に産まれ、仔・母体共に大丈夫か心配になります。連続出産の記録としては、この仲間のサバンナモンキーが、日本モンキーセンター(犬山市)で、15年前に12頭産んだ記録があるそうです。

[6月 〜アシカの出産・キリンの事故死〜]
6月は、アシカの出産の季節です。ほぼ1年の出産期間を経て、早い季節で5月中〜下旬、遅くとも6月下旬には産まれます。この年も14日にチビが、30日にはジュンが出産しています。残念ながらジュンの仔は、隣で主然としているトドに、咬み殺されてしまいました。
アシカの仔は、ここ数年毎年産まれているのですが、成育率の悪いのが現状です。弱いか、哺入が順調にいっても、離乳させるのがむずかしくて失敗したり、前記のように事故で死ぬなど、今までに1頭しか育っていません。チビの仔、三郎が育ってやっと2頭目、全く残念です。これからも、まだまだ出産は望めます。太郎を育て、三郎の離乳も順調です。今までの経験を生かして、皆様の前に、いつでも元気な仔を見せられるようにしたいものです。
他、出産関係では、オオサマペンギンが初めての産卵、ホンシュウシカが3頭、リスザルが出産、放し飼いにしている、クジャクのひなも見られました。
事故の方では、とてつもなく大きく悲しい事故がありました。さしずめ、マグニチュード7の激震と言ったところでしょうか。
朝一番、獣医がいつものように巡視していると、キリン舎のほうから、ドタンバタンと、激しい物音が聞こえてきます。いったい何事かとのぞいて見ると、キリンのメス高子が、部屋の隅のわずかなすきまに、首を突っ込んでもがいているのです。ワァーッと思っても800kgはあるキリン、もがいて暴れたら、手のつけようもありません。どうしようもないままキリンは倒れ、そのまま、ショック死してしまいました。2月の仔の倒れたのに続き、悲劇の連続です。悲報は追い打ち、死んだキリンのお腹には、性別(オス)もはっきりする程の仔を宿していました。
しかし、何で又あんなすきまに首を突っ込んでしまったのでしょう。担当者のうつろな無気力になった表情が今も忘れられません。

[7月 〜ペンギンの来園・他〜]
焼津に、マグロと共にペンギンが多数陸揚げされたらしい。そんな話しが耳に入ってきました。どうも体が小さいということで、オオサマペンギンではないようです。どの種類のペンギンか期待すると同時にワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取り引きに関する条約)が頭に浮かび、面倒なことにならないか、多少不安になりました。今は自然保護の時代、むやみな動物売買はしなく、又できなくなっているのです。
ちょっと見に行って来ると言って出かけた車は、そのまま寄贈を受け、昼過ぎにマカロニペンギン7羽、イワトビペンギン2羽を積んで帰ってきました。幸いこの両種共、ワシントン条約にはひっかからないと言うことでした。
赤道はるか彼方向こうの島々に生息し、神経が繊細で、暑い環境に慣らすのが困難な鳥です。大半が検疫中に死んでしまい、ペンギン池に放されたのは、わずか3羽だけでした。
他この月は、クロヒョウ・リスザルが出産、共に順調に育っています。特にクロヒョウ、何度も紹介しますが、一昨年までは、親任せにするか、人工哺育にするか悩んでいたのに、前年の“木の箱”が功を奏してから、そんな心配は全くなくなっています。

[8月 〜日中親善大使の死・他〜]
8月は、トラが10年連続30頭目の仔を出産しました。この他には、パルマワラビーの出産しかなく、暗いニュースだけが浮かんできます。それは、55年に日中友好でやってきた、レッサーパンダのメスが死亡してしまったことです。大使の役割を充分に果たしてくれなかったのですが、幸いもう1度頂ける話しがきています。今度こそ無事に育て、繁殖に導きたいものです。

以上、前半の主なできごとを紹介してきましたが、この他にもいろいろなことがありました。新しく生を受けるもの、去って行くもの、次号では、9月以降の主なできごとをつづってゆきたいと思います。どうぞお楽しみに・・・。
(松下憲行)

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