275号(2023年12月)4ページ
劇的?ビフォーアフター ダチョウ舎→ ヤマアラシ舎への軌跡
こんにちは。夜行性動物館担当です。皆さま、今年一年はいかがだったでしょうか。今年の夜行性動物館はと言いますと、ツチブタ「ゴロファ♂」の来園など新たな挑戦が多く、とにかく慌ただしい一年でした。そんな中、今年一番の大仕事が、当園で飼育しているアフリカタテガミヤマアラシ「モップ♂」と「シューマイ♀」のお引っ越しでした。
そもそもなぜ急に引越しをすることになったかと言いますと「繁殖のため」ということになりますが、実はなかなか複雑なドラマがありまして…。
時をさかのぼること2年前、シューマイが長野市茶臼山動物園より、繁殖を目的に当園に来てくれました。当初、網越しでのお見合いを行い、和やかな雰囲気だったようです。そのため、終日のお見合いを試みたのですが、夜間にモップが網越しに噛んでしまったようで、シューマイは鼻先に傷を作ることに…。もちろん、最初はある程度の闘争が起こることはあるため、本来ならしばらく様子見をしたいところです。しかし、狭い夜行性動物館で同居させて再度闘争した時、小さいシューマイがうまく逃げることができず、大怪我をする可能性も考えられました。そのためなかなか同居に踏み切れず…。しかし、モップも9歳と若くはなく、できることなら早めに再度同居を試みたいところです。そんな事情で、一昨年度からより広い飼育スペースへの移動が検討されてきました。
さて、いざ屋外への移動を検討するにも、利用可能なスペースは限られており、将来的な計画や作業工程など様々な調整が必要となります。侃々諤々(※1)の議論の末、ダチョウのクランキーに旧アメリカバイソン舎へ移ってもらい、空いたスペースをヤマアラシ舎とすることになりました。
旧ダチョウ舎は開園当初から残っている数少ない施設なのですが、その構造や古さから、ヤマアラシを導入するにはいくつか補修が必要でした。例をあげると、まず柵の目。そもそもダチョウ用に設計されているので、かなり大きめで小さなヤマアラシにとってはもはや柵の体を成しません(※2)。脱走してお客様にお怪我をさせたり、獣舎裏の川に落ちたりしたら大惨事です。そこで、放飼場全体をフェンスで囲いつつ、穴を掘りそうな部分にはコンクリートブロックを埋めることで、脱走防止を図ることとなりました。
また、ヤマアラシは寒さにもある程度強いのですが、2頭は暖房のよく効いた夜行性動物館で暮らしてきたため、いきなり寒い屋外に放り出されれば、体を壊しかねません。そのため、室内にヒーター付きの小屋を設置することで暖を取れるようにしました。
さらに、ヤマアラシは繁殖力が強いので、将来的には頭数の管理ができるよう、室内外ともに分離柵を設け、雌雄別々に飼育できるようにしました。分離柵には、昔フライングメガドームに用いられていた擬木(ぎぼく)のポールをリノベーション。節約もバッチリです。
今回のリフォームで大活躍されたのが、営繕担当のお二方。DⅠY(小屋作り)や重機の使用(分離柵の設置)、溶接(小屋の出入り口の新設)まで、獅子奮迅(※3)のお仕事ぶりでなんてカッコいいんでしょう…。要領の得ない計画を立てた私は、本当に頭が上がりませんでした…。また、設備担当の職員の皆様にも、資材の確保や電気工事など、様々な場面でご迷惑をおかけしました。ちなみに、研究にきていた学生さんにもお手伝い頂きました。皆さま、本当にありがとうございました!
そんなこんなで新ヤマアラシ舎のリフォームが完了!なんということでしょう、広々とした運動場に、暖かいお部屋。小屋はなんと2頭にそれぞれひとつずつ。素朴な見た目ながら、国内のヤマアラシ舎の中では「豪邸」の部類に入るかと思います。
さて、2023年11月6日、とうとう2頭が獣舎に移動!私は大変にヒヤヒヤしながら見守っておりましたが、そんな心配を他所に、2頭は放飼場を縦横無尽(※4)に駆け回り、穴掘り三昧のご様子です。柵越しに臭いを嗅ぎあう様子も見られ、2頭の関係もどうやら良好!同居に向けても一歩前進です。心配された寒さについても、巣箱で快適にぬくぬくといった様子です。
念のため冬季はいつでも室内に入れるようにしているため、観察できないときがあるかと思います。ご容赦いただけると幸いです。
髙橋 勇太
※1侃々諤々(かんかんがくがく):みんなが率直に意見を述べて議論している様子をあらわす言葉
※2体を成す(ていをなす):さまになること。今回の文ではダチョウの柵を体の小さなヤマアラシは通ることができるので、ヤマアラシにとっては柵にならないという意味。
※3獅子奮迅(ししふんじん):勢いよく何かに取り組む様
※4縦横無尽(じゅうおうむじん):思う存分自由に行動すること