275号(2023年12月)6ページ
ダチョウの換羽
今年の春から、久しぶりにダチョウの担当に戻ってきました。前回、私がダチョウの担当になったのは2013年の年明けのことで、まだ飼育係になりたての1年生でした。当時メス1羽しかいなかったダチョウ舎(現ヤマアラシ舎)に、茨城県のダチョウ王国からオス1羽が来園しました。私にとって担当動物の移動に立ち会うのは初めてだったので、トラックから降りてくるダチョウの姿をはっきりと覚えています。ダチョウはオスとメスで羽根の色が違い、オスは黒色、メスは灰褐色なのですが、そのダチョウは間もなく1歳になるかという若齢のため羽根も茶色っぽく、頭のてっぺんの羽根がピンと角のように立ち上がっている姿が印象的でした。当時は体も小さかったため、中に一緒に入ってエサを与えたり、身体を触って健康チェックをしたりしていたのも懐かしく思い出されます。2014年の7月に名前投票を行い、このオスは『クランキー』と名づけられました。ちなみに、当時の名前候補は、くらぶ、クランキー、クロ、ヤーの4つでした。約8年ぶりの主担当ですが、場所は昔のダチョウ舎から新ホッキョクグマ舎横の旧アメリカバイソン舎に変わり、クランキーの羽根は真っ黒、体も大きく成長していました。
一方、当時から変わらないのは、クランキーの求愛ダンスです。朝、私が猛獣館の前を通っていくと、姿が見えた途端に放飼場に座り込んでダンスを始め、出迎えてくれます。よく男性に対して求愛ダンスをすることからちょこちょこメディアにも取り上げられていますが、まれに女性にもダンスをします。クランキーが気に入れば、あなたにもダンスをしてくれるかもしれません。
そんなクランキーとの再会を楽しんでいたのも束の間、6月頃から羽根が抜け始めました。胸や腰の辺りから羽根がどんどん抜けていき、首の後ろ、そして背中全体へと広がり、灰色の皮膚がむき出しの姿に、お客様からも心配の声を頂きました。他の動物園でも、6~7月頃に羽根が生え変わる例が報告されていたので、しばし様子を観察しながら見守っていました。近くで見ると、羽軸はあるのですが、そこから羽根が全く生えていない状況で、まるで葉が全て落ちて枝だけになった冬の落葉樹のような状態でした。
7月末頃になると、首の後ろや胸の辺りの羽軸に羽根が少し生えてきました。新しく生えてきた羽根は、今までの羽根よりも真っ黒で、一目で違いがわかります。少しずつ羽根は生えてきましたが、夏の暑さもあってか、なかなか時間がかかっていたので、8月12日よりエサにビタミン剤を混ぜて与えるようにしました。また、自分で羽根をむしってしまうのを防ぐため、夜間給餌も行い、いつでもエサをつつけるようにしました。すると、みるみる羽根が生えそろい、9月中旬には皮膚も見えなくなるほど黒々としたキレイな羽根が生えそろいました。翼やお尻に生えている白い羽根も、フサフサとボリュームが増し、オスらしい立派な姿に戻ったのでした。
換羽の過程で抜け落ちた羽根は、一部キレイなものを収集・保管してあり、時折「ダチョウのハンズオンガイド」というイベントでも活用しています。ダチョウの卵や羽根・頭骨にさわれるイベントですので、ぜひダチョウを体感しにいらしてください。
横山 卓志