でっきぶらし(News Paper)

« 109号の3ページへ109号の5ページへ »

あらかると 「アクシスジカの母よ やすらかに」

 一九七九年に推定年齢三才で来園したアクシスジカのメスが、十六年十ヶ月余り飼育した後死亡しました。二十年近く生きたであろうことを考えると、長寿と言えるでしょう。
 いっしょに来園したメスは早くに、オスも数年前に死んでいて、彼女だけが今日まで頑張って生きていたのです。現在残っている六頭は、全て彼女の子供です。
 アクシスジカの飼育歴を振り返ると、彼女なしでは考えられません。子の面倒見がよく、この上ない母親らしさを発揮していました。
 担当である私が獣舎へ入ると、すぐ子供のところへ走り寄り、何もされないことを確認してから離れますが、決して気を許さず注意を怠りませんでした。母親として、立派そのものです。
 彼女は亡くなるまで、実に数多くの子供を育て上げました。しかしその子供達、どのように育てられたのか全く覚えていないのか、無事に生んでも子育てに励もうとしないのです。
 四頭の二代目が生んだ子は、二十頭以上に及びます。が、その内でまともに育てた子はわずかに二頭と、母親失格集団に成り下がっているのです。彼女がいなかったら、遠の昔に当園のアクシスジカはいなくなっていたでしょう。
 老齢になりながらも、昨年末に妊娠。その妊娠が彼女の余力を奪い、寿命を縮めてしまう結果になってしまったようです。
 警戒心の強いアクシスジカにしては珍しく人に馴れ、体に触ることもできていたので、いなくなった今は寂しさが募ります。私の担当動物の中での、思い出深い一頭になるに違いありません。
 御苦労様、ありがとう。やすらかに。
(池ヶ谷正志)

« 109号の3ページへ109号の5ページへ »