でっきぶらし(News Paper)

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動物病院だより☆シロサイの採血

 今年の夏は何とも夏らしくない夏で、梅雨明け前はあれほど暑かったのに、いざ明けてしまうと暑い日はあまりなく、雨が多くて、やはりここのところの気候は異常だなあと思ってしまいました。そのせいかは判りませんが、夏風邪をひいている人も今年は多いような気がします。風邪がひどければ、お医者さんに行って診てもらうことになると思いますが、皆さんもそんなお医者さんに診てもらった時や、健康診断を含めると、一度くらいは採血をされたことがあると思います。
 動物園の動物は一部の家畜を除くとほとんどが野生動物です。ですから、思うように体を触ったり、また痛いことなどはなかなか出来ません。犬や猫、牛やウマなどのペットや家畜では治療や健康診断の時にほとんど問題なく採血をすることができます。(一部気の荒い個体は非常に苦労しますが・・・)
 現在、日本平動物園の野生動物で定期的に採血をしているのはゾウくらいで、月に1回行なっています。定期的に採血をしていれば、外観に現れない変化を追うことができたり、健康な状態でも非常に貴重なデータになります。しかし獣医の立場から何といっても助かるのは、いざ調子が悪くなったときに、採血やその他の治療が楽だということです。血液という、身体の中から見た状態が解れば、その方針を立てるのに非常に役立ちます。
 そこで新たに目をつけたのがシロサイです。去年雌が脚を怪我して大変だったのですが、その時に採血は行なっていませんでした。しかし、実際わずかながらでもサイから採血をしている園館もあり、ちょうどその動物園に見学に行った時にその様子を見せてもらいました。当園の個体も身体に触ることはそれほど問題ありませんし、何とか採れるのではないかと、一度やってみることにしました。
 サイの場合は採血は耳の静脈から行ないます。しかし血管は非常に細く、注射器のシリンジを引きすぎると血管がへこんで張りついて、血を抜くことが出来なくなってしまいます。そしてどのように採血するかですが、いくら触れるからといっても、ゾウのようにきちんと調教はできませんので、檻の中で一緒に入って痛いことをするのは、彼らにとっては初めての経験ですし危険です。また、耳のすぐ側にはあの大きな角がありますので、本人は悪気はなくても、ちょっと顔を振っただけでこちらは大怪我となってしまいます。そこで彼らの顔より高い位置で、気をつけてやれば大丈夫だろうと、放飼場の柵越しに行なうことにしました。実際、彼らが起きている時に、担当者や私たちが放飼場の檻の所に行くと「何やってんの?」とか「ちょっと顔を掻いてよ」というように近寄ってきますので、あの広い放飼場を逃げ回るようなこともないだろうと打ち合わせをしてやってみることにしました。
 さあ、本番です。一応、ご機嫌取りの餌と身体を掻いてやるデッキブラシを持って始めることにしました。私たちが柵のところまで行くと、いつものように側に寄ってきました。餌を少しやって、ブラシで身体を擦りながら耳を手前に引き寄せて耳の根元を掴みました。これは駆血といって、心臓の方に戻る血を止めて、血管を浮き立たせるのです。1分ほど駆血していると、漸く血管が浮き出てきたので慎重に針を刺し、ゆっくりと血を抜きました。血管が非常に細いので流れる血の量も少なく、なかなか血が注射器の方に入ってきません。その間サイの方は別に耳が痛いとか、気になるというような様子はないのですが、餌を食べていますのでモグモグ口を動かしたり、餌を拾うときにどうしても耳も動いてしまいますので、針と注射器を離さないようにするために苦労しました。それでも何とか検査するだけの量が採れましたので、次は雌の番です。彼女に側に寄って来てもらい、耳の根元を掴みました。しかし雄のようには血管が浮き上がってきません。仕方がないので、多分これが血管だろうというところを針で刺すと、非常にゆっくりと血が抜け始めました。しかしその間は雄と同じように顔を動かしますし、そのうえ雄がもっと構ってほしいのか、顔を寄せてきて邪魔をします。何とか餌で釣って別の所にやっても、それが食べ終わると再び邪魔をしに来ます。しかしなんとかだましだまし、雄の倍くらいの時間をかけて採血を終了しました。
 その後はサイ舎の前を通ったとき、彼らが起きている場合は側に呼んで、駆血の練習をしています。その時も、1頭を駆血しているともう1頭が「ボクも、ボクも」「私も、私も」と邪魔をしに来ます。 
 今後も何も邪魔さえなければ、彼らと私たちのお互いのためにこの採血は続けていきたいと思います。
(金澤裕司)

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