97号(1994年01月)14ページ
動物園こぼればなし 〜 ハイイロキツネザルの赤ちゃん 〜
母乳が飲めず人工哺育で育てられたハイイロキツネザルの赤ちゃんはチカコと名付けられました。
当時子供動物園には、休日の度に遊びに来る人も多く、飼育動物にもその人達の名前が付けられていました。
そのなかのチカコさんという娘さんが数?私の名前をと頼まれ、チカコが誕生したのです。体重39g、ミルクを1cc飲ませるのにも時間のかかったチカコ、風邪をひいたり便秘になったりと、いろいろありました。でも、何とか順調に育ち、大勢の人に可愛がられ、手のひらの上で寝るくせがついたり、機械人形のように飛び跳ねる姿はすっかり人気者となりました。
3ヶ月ほど夜間は家に連れて帰っていましたが、餌も食べるようになり独立させる事にしました。
人工で育てられたチカコはサルではなく人と思いこんでるのでしょう。
兄ザルと見合いをさせてサルの自覚をもたせなくてはと、ケージの中央に紙を貼り小さな穴をあけ、片側に兄ザル、反対側にチカコをいれました。
その小さな穴から隣をのぞいたチカコは見知らぬ動物をみてビックリ仰天、飛び上がって驚きました。
それから少しずつ穴を大きくして馴れさせ、サルとしての自覚もできたようなので最終的には同居させることができました。
そんなチカコも病気になり餌も食べることができなくなり、日に日に痩せ細って行く姿は哀れで見ていられませんでした。そんなチカコは私が休みの日にひっそりと生後1年7ヶ月という短い生涯を終え帰らぬサルとなりました。
いまでもチカコの姿は脳裏に焼き付き忘れる事はできません。
(後藤昭)