97号(1994年01月)15ページ
動物園こぼればなし 〜 オオアリクイのお父さん 〜
オオアリクイの「ジョッキー」(♂)は1981年11月に来園しました。その時の体重は4kgしかなく、可愛い幼獣でした。
そのジョッキーの面倒を見てくれたのが、今の姉さん女房のオカーチャンでした。
知らないということは恐ろしもので、成獣と同じ餌を与えて飼育してしまった為、成長には時間がかかりましたが、何とか育てることができました。
餌の中に犬用ミルクが入っていたのが良かった様で、今思うと冷汗ものです。このジョッキーずいぶん手を焼かせてくれました。
ある日の午後、放飼場で倒れ動かなくなってしまいました。直ちに、室内に収容しましたが、昏睡状態になり大きなイビキをかき、まるで麻酔にかかったようになりました。
すぐ獣医の診察を受け処置を施し、様子を見ることにしました。
なんとか意識を取り戻してくれと2時間ほど付き添っていましたが、少しでも足しになればとお腹をマッサージしていたところ突然「ブー」と一発、奇跡が起きました。神はジョッキーを見捨てませんでした。
来園以来数年経過しても二世誕生はないため、餌も変えてみました。また別居させてみようかと焦っていたある日、舌の先端が数センチほど皮がむけ、赤くなり餌も食べられない様になりました。
その後、状態が悪化して意識不明になり、園内の動物病院に入院させました。後日意識が戻ったとの連絡を受け、見舞いに伺うと、懐かしい臭いの人が来たとばかりに鼻をくんくんさせ、興奮したのか再度昏睡状態になり獣医に叱られる始末です。
翌日意識を取り戻したので、すぐ獣舎に移動しました。その後しばらくの間野生動物の本能か体力の消耗を防ぐためか丸くなって寝て動きません。
担当者としては心配で毎日長い時間をかけて少量の肉や、注射器とカテーテルを使用して餌を流し込みました。
怪我をしてから22日目の朝突然起き出して餌を食べたのです。
奇跡がまた起こり、なんと幾日もたたないうちに種付けと言う離れ業まで演じて子供を残してくれたのです。
(後藤昭)