160号(2004年07月)8ページ
「 病院だより」 ジャガーの悩みごと
今年の夏は例年にない猛暑で大変でしたね。動物達も暑さにまいっていましたが、暑さ以外でまいってしまい、私達を心配させている動物がいます。
動物園の門をくぐり、ニホンザルやチンパンジー達の前を過ぎると、坂を上りきった正面にいるのが、ジャガーのアラシ(オス)とキコ(メス)の2頭です。アラシはジャガーの中でも珍しく全身黒色なので、黄色に黒色の模様のキコと見比べて、「クロヒョウとジャガーが一緒にいるよ!」と間違えられることがありますが、よく見ると、黒色の中にちゃんとジャガーの模様があるんですよ。今度是非見てみてください。アラシとキコは、昨年の5月にアメリカのオマハ市ヘンリードーリー動物園から来園した、どちらも現在3歳の若い個体です。2頭は、体をなめあったり寝転がったりと、とても仲良く暮らしています。
さて、そんなジャガーですが、メスのキコは実はかなりナイーブな性格で私達を心配させています。突然ですが、皆さんのストレス解消法は何ですか?動物は、人のように買い物に出掛けたり、お酒を飲んだり、カラオケで歌ったりすることはできません(しないでしょうけど)。キコはストレスに弱く、大きな物音がしたり、工事が入ったり、とにかく何かあるとすぐに胃にきてしまう傾向があるのです。今年の夏の「夜の動物園見学会」でも、キコの調子が悪かったときには展示を控えさせていただきました。
そのため、キコは胃腸薬がなかなか手放せません。飼育担当者が「今日は顔つきが違うので食べないかもなあ」とか「今日の感じはまだ余裕がありそうだよ」とキコの代弁者になって教えてくれますが、調子が良くなっていざ投薬を止めると、急に食べなくなったり、吐いたり、下痢をしたりするので、一喜一憂です。こちらも胃が痛くなってしまいかねません。
ストレスの要因の一つになったのが、隣りの寝室にいたライオンのキング(オス)の存在です。寝室間には小さな窓があるのですが、隣りにライオンのオスの大きな顔が見えるとびっくりするので、板を貼り付けて見えないようにしていました。しかし、元気者のキングが勢い良くその板をガリガリガリとたたくので、怖い思いをさせてしまっていたようです。そのため、飼育担当者が機転を効かせ、その窓をコンクリートで塞ぎ、さらには部屋を一つ遠い部屋に換えました。その後、落ち着いたようで調子が良かったのですが、先日アラシが爪とぎをしていたはずみで展示場の止まり木が倒れてから、また調子が悪くなってしまいました。キコが安心して生活できる環境を整えてあげられるようにしなくてはいけません。
今日もキコを見つめては「キコちゃん、お願いだから食べてね」と言い聞かせる(お祈りをする?)毎日です。 (野村 愛)