164号(2005年03月)5ページ
オランウータンのジュリー故郷へ
平成13年4月23日に来園したオランウータンのジュリーは4年間の日本平動物園での生活を終え、自分が生まれてから36年間暮らしていた多摩動物公園へと帰って行きました。ジュリーと過ごした4年間は、試行錯誤の繰り返し。同じオランウータンでも、個体が変われば、飼育係はその動物に対しては初心者と思い知らされ、勉強になりました。
ジュリーは生まれてから36年間を多摩動物公園でずっと暮らしていて、人間の年でいえば、72才を越しての見知らぬ土地で新しい生活という事で不安で一杯の来園であった事でしょう。皆さんも自分の身に置き換えて考えてみて下さい。70才を過ぎて全く知り合いもいない見知らぬ土地で暮らさなければならなくなった事を。
まあ個々性格にもよりますが、ジュリーは大変難しい個体でした。まず動物園で暮らして行くには必要な部屋間の移動を、私達が見ている時は絶対にしません。来園してから最初の3年間で目の前で移動したのは2日だけ、部屋を動いてくれなければ清掃も出来ません。隣の部屋に餌を置き扉を上げても、係員がいれば動きません。
そこで帰ったふりをして隠れると、動いて餌のある部屋へ。そこでやっと元の部屋を掃除できるという始末。しかし、すんなりと動いてくれません。隠れる事数分〜40分も隠れる事もありました。それでも動く時はいいのですが動かない時もあり、短い時で数日、長い時は43日も動かず、部屋は自分のいる場所以外はうんこだらけの時もありました。
なかなかこちらに心を開いてくれず、少し心を許してくれたかと感じるようになったのは3年以上もたってからです。隣の部屋に餌を置き扉をあげて目の前で移動するようになった時は3年以上の年月がたっていました。さあこれから、という時に多摩動物公園のオランウータン舎がリニューアルされたという事で、ジュリーは生まれ育った多摩へと戻っていきました。
多摩では母親が49才で健在です。ジュリーも移動箱に入れる時、麻酔をかけ捕獲し血液検査をしましたが、年齢の割には検査結果は良いとの事なので、母親の年齢まではまだまだ、元気で暮らせるのでは思っています。
当園での4年間は大変世話をやかされた分、存在が大きく、いなくなっても関わりのあった人達は、オランウータン舎に来るとなんとなく、ジュリーのいた部屋の方を見てしまうようです。
(池ヶ谷 正志)