187号(2009年04月)4ページ
<動物園実習を終えて>
北里大学獣医学科5年 稲葉七巳
8/15〜8/19までの5日間、静岡市立日本平動物園に獣医実習へ行かせていただきました。
動物園は幼い頃良く通っていた場所でもあり、そして一般の方々にも多く知られかかわりがある場所であるため、獣医としてどのような仕事をしているのかにとても興味を惹かれたのがその理由です。
主に実習をさせていただいたことは付属の病院での実習と、朝夕に園内の動物を見回ることでした。付属の病院では入院中の動物のほか、老齢のために展示できない動物、また他の個体と調和できなかった動物、更には繁殖しすぎのために展示しきれない動物や野生からの保護動物がいました。
怪我をしたり病気をしたりした動物だけでなく、他にそのような動物たちが病院に収容されていることにまず衝撃を受けました。またその入院中の動物たちの食事にとても気が遣われていて、1頭1頭の好物なども考慮してメニューが異なり、バランスの良い食事づくりが行われていたことに驚きました。
園内の動物の見回りは普段から行っている個体の治療が主でしたが、そのほかに動物に慣れるための顔見せという目的もあり、特に象やチンパンジーにおいては人見知りが顕著で、知らない人間に対しては警戒心をむき出しにしているのが分かりました。
またこの実習期間中にオペの現場を見られたことは、動物に対しては不謹慎かもしれませんが、実習生としては幸運な出来事でした。
普段自分たちが学校で行っているような病院でのオペ実習とは違い、その知らせは唐突にやってきます。なので衛生面は二の次で、迅速に、かつできるだけ動物に負担をかけずにオペを行うことが要求されていました。
私は普段近くで見られない動物なのだからと興奮と嬉しさが先立ち、思わず不用意に手を出したり、近づき過ぎたりしそうになりましたが、けれどもやはり相手は野生の動物であるために何が起こるか分からないと言うこと。
だからこちらも警戒心をもって医療の現場に当たらなければならないのだということを、この実習から教えられました。
オペや動物の移動の際の麻酔も吹き矢で行われ、きちんと麻酔がかかっていることが確かめられてからでなければ近づくこともできない。医療行為のためでさえこのように警戒心をもたなければならないことは、普段犬猫のような小動物の現場しか見ていない自分にとっては驚くべきことでした。
また動物の異常を見逃さない観察眼、原因追求、そしてそれに対して迅速に治療方針を立てて、実行すること。異常は何も外見に表れるものばかりではなく、餌の残し方で分かる摂食量や、行動の遅さなどからも窺い知ることができます。
むしろ、そんな些細なことからしか察することもできないこともあるのだと分かりました。それが動物園の獣医師に求められていることだと実感することができました。
5日間という短い間でしたが、臨床としてだけでなく、動物園の現場自体を見れたことはたいへん自分にとって有意義なものになりました。
未熟な自分に多くの飼育員の方々・獣医師の方々がご指導くださったこと、心よりお礼申し上げます。