68号(1989年03月)3ページ
あらかると・親に似ないシカ
★親に似ないシカ
動物園で生まれ育ち、ましてや親がよく人馴れしていれば、楽に体を触れそうに思います。けれども意外とそうならないもので、アクシスジカの場合、親より子、子よりもそのまた子、というように下へ行く程悪くなります。
例えば、小屋の中に乾草を広げます。親はすぐ様食べ始めますが、子は小屋に入って来ないで、覗き込むようにするだけです。
一、二歩引き下がると中に入って行きますが、その又子はまだ入りません。扉を開け外へ出ようとする時に、待ちかねたように入って行きます。
本来持っている臆病な性格故と言ってしまえばそれまでですが、親が係の人に平気で体を触らせ、ちっとも恐がっていないのを見て育っているのですから、不思議な気がしないでもありません。「子は親の後ろ姿を見て育つ」なんて言うではありませんか。
私がちょっと手を伸ばして触りに行こうものなら、まるで痴漢にでも出会ったようにビクッとし警戒します。ちびっとぐらい御愛嬌で触らせてくれたほうが、可愛気があっていいのですが…。
(池ヶ谷 正志)