でっきぶらし(News Paper)

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≪病院だより≫ペンペンの入院

 それは四月のある日曜日のことでした。
 ペンギンの担当者から、至急来て欲しいとの連絡がありました。ペンギン舎に行ってみると巣穴の中で一羽のフンボルトペンギンがうつ伏せに横たわり、ぐったりとしていました。自分の排せつ物で体が汚れ、毛艶などの羽毛の状態も悪く、このまま放置すると危険な状態と判断し、すぐ入院することになりました。
 病院の治療室では、まず体温を測るとほぼ正常で、体重は3.5キロでした。次に体全体のレントゲン写真を腹ばいと横向きの二つの方向から2枚撮影し、写真が現像終わるまでの間に、何か変な物を飲み込んでいないかどうか、口から内視鏡を入れて観察しました。
 ペンギン舎は屋外なので、落ちてきた木の葉などを飲み込んでしまい、それが悪さをすることも考えられました。調べてみると口から胃までの間には、何も異物が見つかりませんでしたが、その間に現像が終わったレントゲン写真を見て、「なんだ、これは?」と一同びっくりです。下腹部の辺りに?線を透さない、通常あり得ない白い影が写っていたのです。二枚の写真を見て考えると、その白い影はニワトリの卵ほどの大きさでした。
 さらに、写真をよく見ると、その影は一つの大きな塊ではなくて、小さな異物がいくつも集まっている様に見えました。そのお腹の辺りを触ってみると、シャリシャリと小石が擦れ合うような感触があり、石のような異物が大腸に溜まってしまっていると考えられました。その日の処置としては、抗生物質、栄養剤、消化管の運動を促進する薬を注射し、栄養をつけなければならないので、カテーテルと言う細い管をのどに突っ込んで、栄養剤入り魚のミンチを強制的に飲ませました。
 次の日からは小さなアジを選んで、強制給餌という方法で、体を押さえて、のどに押し込んでみました。すると飲みこんでくれるので、消化管の運動を促進する薬の注射による治療と強制給餌を続けることにしました。その次の日には、のどまで入れなくてもくちばしの中に魚を入れてやると、抵抗せずに自分で飲みこんでくれるようになりました。こうなるとしめたもので、2、3日もすると、何とか自力で立ち上がるようになり、アジを差し出すと自分からくわえて、飲み込むようになりました。この個体には名前がなく、個体番号しかついていなかったので「ペンペン」と皆で呼び始めました。
 その頃、部屋を掃除していたら、1センチ位の石ころが転がっていました。外から入院室に、石ころが入るとは考えられず、これがレントゲン写真の影の正体だと思われました。ペンギン舎の放飼場はその一部に砂を敷いてあるのですが、それをほじくり返して、小石を飲んでしまっていたのかもしれません。通常、これ位の大きさの石でしたら、自然に体の中から排出されると考えられるのですが、お腹の中に溜まっているより、はるかに多くの石を飲み込んでいたのかもしれませんし、また、一度は2、3センチほどの石も出てきたので、そのような大きな石があったのが原因かもしれません。注射の効いたのか、度々石の排出が続き、状態は日増しに良くなってきました。
入院して一週間もすると、掃除をするときは自分から部屋を出て、掃除が終わるのを待っている位に歩けるようになってきたので、もっと運動することが出来るように部屋を広げて、注射を止めて餌だけで体力をつけてもらうにことしました。
 入院して最初の頃は、体を押さえつけたりしていたので、人に対して「フーッ、フーッ」と怒ることもあったのですが、その内に人のそばまで寄ってきて、餌をねだるようになりました。時々機嫌を損ねると、「もういらない!」と餌を放り投げて、採食量が少し減ることがあるなど、多少の波はありましたが、日増しに元気になり、お腹の中の石も大分排出してきたので、入院十日目を過ぎた頃に再度レントゲン写真を撮ってみるとお腹の中には小さな石が二つ残っているだけでした。毛艶も良くなってきたので、プールに水を張ってやると、最初のうちはあまり入りませんでしたが、だんだん入るようになってきました。
 そして、最後の小石二個も排出し、体力もついてきたと思われたので、一カ月程の入院生活を終了し、ペンギン舎に戻りました。退院した夕方には他の個体と一緒に餌を食べ始めましたようで一安心しました。
 今回、ペンペンから全部合わせると50グラム程の小石が出てきました。退院時のペンペンの体重は入院時とあまり変化がありませんでしたが、大人の人間で考えてみると、1キロ位の石を飲み込んでいたと考えられます。入院した時の状態が、お腹の中の石のせいなのか、他にも原因があったのかわかりませんが、無事体調を戻してくれて、病院スタッフ一同胸をなで下ろしました。今後、放飼場で余計ないたずらをしないように願っています。

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