195号(2010年08月)3ページ
飼育員として
子供のころからの根っからの動物好きで、犬、鳩、金魚、メダカ、鶏など家で飼ってきました。将来はもっといろいろな動物を飼ってみたいと思っていました。偶然に高校卒業時に動物園開園で職員募集がありました。初々しい心の少年が、選択に悩んだ結果「好きな事をして生活ができる」と、この仕事を選び、とび込みました。いろいろな嬉しいこと、悔しいことを経験し、42年があっという間に過ぎようとしています。42年前「日本平動物園」開園での職員募集という偶然と仲間たちに感謝いたします。
退職をあと数カ月に控えた、私自身が培ってきた40年間の飼育員としての心得をここに残します。
1、動物園は安全安心に過ごすことのできる憩いの場所です。決して動物を檻から脱出させてお客に危害を及ぼしてはなりません。一番の恥は動物を檻から脱走させることです。「施錠確認は指差しと再度のチェック」の原点を体に浸みこませましょう
2、ペットと違い、動物園で飼育している野生動物の場合は、「飼育している」のではなく「飼育されている」と考える方が望ましいと思います。
なぜなら、長生きをさせ繁殖に結びつかせるには、狭い飼育環境の中で動物たちが何を欲しているのかを観察の上で察知し、実行してやるのが飼育員の仕事ではないでしょうか。なかなか難しいことですが、飼育員の禁句「メンドクサイ」そう思うことが多い人は飼育員に向いてなく、動物達のために転職を勧めます。
3、飼育員と獣医の関係は、わが子が病気をしないようにするのが役目の動物たちの親代わりが飼育員で、獣医は掛かりつけの医者です。
4、野生の動物は常にスキをうかがっています。危険回避のために飼育員は背中にも目を付けて集中して作業をしましょう。動物舎から出る時は後ろ向きに!
5、自らの健康に注意し、二日酔いは厳禁、家庭のいざこざを職場に持ち込まず、作業中は余分な事を考えず、集中して作業に取りかかりましょう。
6、作業の途中で中断をすると施錠のかけ忘れによる動物脱出等による危険度が増します。他の人に呼ばれ、また他の仕事に取り掛からず一つ一つの作業を終えましょう。
7、寿命に限りがあるため動物たちの健康保持に配慮した飼育をして死んだ場合は仕方がありません。手を抜いて死んだ場合は「殺した」といいます。
8、仕事に対し誇りを持つために、毎日の作業で使用する用具は雑に扱わないようにしましょう。清掃道具を汚く乱雑に扱う人は飼育員としては不向きです。
9、飼育員の仕事は肉体労働(動かなければ終わらない)と神経労働(野生動物の危険性を認知して)の2点が基本になります。
10、飼育員の作業は、糞を取り清掃をするだけの飼育員ではありません。仕事は周りを見渡せばいくらでもあります。
11、代番時は忙しくなり危険度も増します。相手に負担の無いような段取りの配慮が必要です。
12、動物園の発展のために飼育員は人前に出るのを嫌がらずに動物園の顔になりましょう。
13、お客の中には、まだ飼育員の仕事に対し偏見を持っている人がいます。服装は清潔に保ち言葉使いは丁寧にして飼育員のイメージアップに繋げましょう。
また、お客によっては面白半分で飼育員をからかってきます。仕事に対し誇りを持って動じない心を持ちましょう。
14、動物たちの持っている未知の病気があるので、常に清潔にし、感染症に注意しましょう。
15、飼育している動物たちは個人の愛玩用ではなく市の財産です。動物が好きな人には向いている仕事ですが、趣味ではなく組織としての仕事です。
16、中には人間を非常に怖がる動物がいます。動物にストレスをためさせないために作業段取りの把握をして、何回も舎内の出入りをしないようにしましょう。
17、担当の仕事を、責任を持って行うことは基本ですが、毎日のように2〜3年同じ獣舎の業務をしていると本人の気がつかない所が出てきます。他の飼育員とミーティングを密にして意見を尊重し、その担当場所を向上させることが重要です。
18、飼育技術の継承はとても大事で、危険回避の手段でもあります。動物たちの行動観察をよくして記録として残すことが、狭い檻の中で一生過ごす動物たちの償いにもなります。動物の命を無駄にしないためにも後に続く人に残しましょう。
19、野生動物は「危険」であることを忘れないでください。でも可愛いものです。
*飼育員である人の性格は
?「おおらか」であり、
?「気配りの良い」
?「まめ」な人が良いと思います。
○これからの動物園について
残念なことに、すさまじい人間一種の文明のために急速に自然が破壊されています。生き物たちは無の時間がなくこの地球が50億年かけて作り出したかけがえのない財産であると思っています。この財産を一種でも「負」のものにしないために環境教育、自然保護のための公立の動物園飼育職員であり、動物たちの親代わりであることに誇りを持って勤めていただきたいと思います。
これはあくまでも私個人の考えで強要する気はありません。
お世話になりました。
(川村敏朗)