197号(2010年12月)2ページ
≪あらかると≫ムールとマッチの2頭のメス同士の「権力争い」
前回に続いてのライオンのニューファミリーの話です。
299開館に合わせて他園からやってきた共に4歳の雌のマッチとムール。
搬入時、輸送箱から動こうとしなかったマッチ、対照的にすんなり輸送箱から出て、すたこら寝室に入ったムール。
キングというちょっと変わった性格のお婿様に迎えられ幸せな家族として平穏に暮らせると思っていましたが、キングの存在と、狂うほどの恋から波乱万丈の様子へと変わっていきます。
最初は2頭のメス同士、トラブルもなく心配の種はみじんも感じられませんでした。
むしろムールはマッチに気を使い遠慮していた状態でした。
体重が91kgのマッチに対し、ムールが71kgと痩せすぎていたため、正常の状態にしようと思い、給餌量を増やしました。
ムールは体重の増加とともに、徐々に力を付け始めました。
この頃から野望が脳裏にべったりと張り付いてきたのでしょう。
キングの存在が、徐々にマッチに対する闘争心に火をつけ始めました。
今までは、マッチに気を使って遠慮していたムール。ですが、トップである正室の座に魅力を感じ始めたのでしょう。
何と、ムールはマッチに対して挑戦状をたたきつけたのです。
トラブルを避けようとするマッチ。
すきあらば!と、ほふく前進でマッチに近づき闘いを挑むムール。
「ムール、それ以上近づくな。マッチが迷惑そうにしているじゃないか!」
「ムール、用もないのにマッチに近づくな」と飼育員の叫び。
アニメの世界、瞳の中にメラメラと炎が、突然マッチに対して喧嘩を挑み、噛みつき傷を負わせる。
その後もたびたびの闘争勃発。
ムールは私にも吠えてくるようになり、変貌ぶりに目を疑いました。
人工保育で育ち、群れの生活の規則を知らないムールが天下を取ると、ルールなき闘いが長く続き、マッチがひどい怪我を受ける恐れがあります。
ムールの力を再び弱くし、ルールを重視するマッチが天下をとったほうが平穏になります。
可哀そうではありますが、ムールの力を減らすために減量をしています。
(現在の給餌量は、馬肉2.5kg、鳥の胸肉0.2kg、鶏頭14個です。)
キングの発情での狂い方だけで私の精神状態は一杯一杯です。
雌同士の闘争の終焉を願い、時間のみが解決してくれると信じています。
飼育担当 川村 敏朗