198号(2011年02月)4ページ
「フェネックの巣穴」
フェネックは、アフリカ大陸の北部から、アラビア半島の砂漠地帯に生息する最も小さなイヌ科の肉食動物です。一見、小型のキツネのように見え、特徴的な大きな耳を持っています。昼間は、砂漠の穴の中に潜って生活をしている夜行性の動物です。
夜行性動物館で飼育しているのは、ともに2002年8月生まれの♂(オレゴン)と♀(バージニア)です。2頭ともに、アメリカで生まれ育ち、同年12月26日に来園しました。
その後、夜行性動物館の一室で飼育を始めましたが、数年が経過しても、なかなか繁殖にはいたりませんでした。
大型の木製巣箱が設置してあったのですが、室内の狭さもあり、清掃作業の音や出入りの気配が中に伝わり、落ち着くことが出来ないのではないかと思いました。そこで目をつけたのは、展示室の一角にある岩山です。これを改造して、何とか巣穴として利用できないものかと考えました。
巣穴として利用するには、少し小さく感じましたが、何とか必要な容積は確保できるだろうと思いました。問題は、擬岩形式の岩山の中の構造です。園内の修繕を担当している職員に、削岩機で岩山上部に穴を開けてもらい、中の状態を確認しました。幸い、中は鉄筋や金網、L字鉄骨で支えられているだけで、空洞となっていました。これなら、何とか巣穴として利用できると確信し、設計にとりかかりました。
最深部に出産育児場所を確保し、そこに出入りできる通路を2ヶ所設けることにしました。
まず、巣穴全体の空間を確保するため、金網、鉄筋等を必要最小限取り除き、岩山としての強度を保つように努めました。フェネックが実際に利用する通路と産座は、合板を使用し、製作は修繕担当職員に依頼しました。限られた空間と後付作業のため、通路2つと産座の3分割にして、中にピタリと収まるように取り付けました。また、出入り口の2ヶ所は、木枠と岩山の隙間をなくすため、小石とコンクリートで埋め固めました。
岩山上部には、内部の点検と清掃ができるよう、取り外しが可能なフタを設置し、違和感がないように小石とコンクリートでカムフラージュしました。
なお、2ヶ所の巣穴への出入り口の間にある大きな穴は、最初から設けられており、奥行きもなく、巣穴としての利用は出来ませんでした。
こうして、巣穴が完成し、動物病院に一時収容していた2頭が戻って来ました。工事が始まるまで、ここで飼われていたので、新しく設置した巣穴にも直ぐに慣れ、出入りするようになりました。
その後、この巣穴があることで、安心したのか、繁殖を始めるようになりました。最初は、順調に成育とはなりませんでしたが、昨年10月末には双子が生まれ、現在、順調に成育しています。生後2ヶ月ころからは、親子4頭で遊びまわる光景が見られるようになりました。
飼育担当 渡辺 明夫