199号(2011年04月)2ページ
大空へ!
冬のある日、野生のミツユビカモメが1羽、動物園に運ばれてきました。見てみると、その体には針の付いた釣り糸がたくさん絡まっており、かわいそうな姿になっていました。この鳥を見付けて動物園に連れてきて下さった市民の方は、「かわいそう。なんとかしてあげて!」と、訴えてきます。多少のすり傷はあったものの、幸い針を飲み込んではいないようで、絡まった糸と針を取り除き、傷を消毒する程度ですみました。
たいしたケガもなくホッとしたところで、次は体力回復のため餌を与えます。餌は器に魚を入れて置きます。素直に食べてくれれば良いのですが、そこはやっぱり野生動物!!始めから素直に食べてくれるはずがありません。そうなると、鳥の口をこじ開け魚を喉まで押し込みます。かわいそうに思うかもしれませんが、この種の鳥は数日間餌を食べないだけでもすぐに衰弱して死んでしまいますから、無理矢理にでも食べさせます。大変嫌がって、魚を吐き出してしまう場合もありますが、その度に「食べなきゃ死んじゃうよ、食べなさい!」と言いながら、根気よく魚を飲ませます。そうして、強制給餌と置き餌を平行して行い、置き餌を自力で食べてくれるようになりました。自力で食べてくれた時は、やはり嬉しく思いました。食べてくれれば一安心です。
そして数日後、早めの放鳥を決定しました。この子の場合、大きなケガはなく、羽根のツヤも水はじきも良かったので、早く放したほうが良いという判断でした。本来ミツユビカモメは沖で生活していて、岸にはほとんど姿を見せない鳥です。そのため狭い場所で長く飼うと飛ぶ力が衰え、長距離を飛べなくなってしまう可能性があったからです。部屋では羽ばたく姿も見られず、飛べるか心配に思いましたが、カモメの仲間は羽ばたいて飛ぶというより、あまり羽ばたかず風に乗って飛ぶタイプなので、思い切って山の上から飛ばしてみることにしました。
放鳥当日、空は快晴、風も心地よく絶好の放鳥日和!左には富士山、前方には茶畑を下って清水の町と海が広がっています! いざ大空へ!!
バサバサッと勢いよく茶畑の斜面に添って飛び出しました!すると山からカラスが数羽追いかけてきましたが、全て振り切って一気に海まで飛んで行き、あっという間に見えなくなってしまいました。飛んでいくその姿は、まるでナウシカのメーヴェの様でした。
私は、保護された野鳥を何羽も放鳥してきましたが、これほど気持ちよく飛んで行ってくれたのはこれが初めてでした。中には放してみたけど全然飛べずに、目の前で地面に落ち、動物園に連れて帰って放鳥出直しになってしまう子もいます。手をかけて世話をし、元気になった野鳥が気持ちよく飛んで行ってくれた時は本当に「あぁ、良かったなぁ」と思います。今まで放鳥してきた鳥達が、野生で強く生きていてくれることを心から願っています。
動物病院 平野 紗恵子