でっきぶらし(News Paper)

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「冬でもアツアツ!仲良しサイチョウのペア」

 静岡一年目の私は今、初めての静岡の冬を過ごしています。暖かいとは聞いていましたが、まさか朝の掃除で汗ばむほど暖かな冬になるとは想像すらしていませんでした。
 そう!今月号は、冬でも十八度以上、寒さの苦手な鳥たちの集まるあたたかな熱帯鳥類館から、中でも一番アツアツなカップルの話で温かさのおすそ分けをしたいと思います。
 そのカップルは、入口正面にいるサイチョウ夫妻です。サイチョウは嘴の上にあるサイの角のような飾り(カスクといいます)から、『サイ』チョウと呼ばれています。この立派なカスクと熱帯鳥類館で一番大きな体で、勇ましく見えるサイチョウですが、実はとっても怖がり。サイチョウに限らず、飛べる鳥たちは、野生下では高い木の上まで移動できるので、人のような大きな哺乳類には自分が絶対に安全な高さまでしか近寄りません。近いところまで人が来るのがとっても怖いのです。そのため、飼育員が展示室に入ると、夫妻はそろって、巣箱の上の一番高い枝まで大急ぎで逃げます。さらに、飼育員が見慣れない道具を持って展示室に入ると恐怖は最高潮に達し、おしりをぶるぶる震わせながら、食べた餌をごぼごぼと落としてきます。これはすぐ逃げられるように体を軽くするためで、要はすっごく怖がってる姿です。そんな怖がりのサイチョウですが、豹変していた時期がありました。それは繁殖期。実は、初めて担当になって数カ月、逆に私がサイチョウに怯えていたのです。
 サイチョウは他の鳥と違う習性をもち、メスは抱卵とヒナの世話をする二カ月近くを巣の中だけで過ごします。その間、オスはメスやヒナに餌を運びつつ、母子のいる巣を守ります。そのため、天敵の私を見るとあの立派な嘴を『ゴツンゴツン』とガラスにぶつけては威嚇。展示室に入ろうものなら、すぐにこちらまで寄ってきます。もちろん狙いは私を追い払うこと。急いで餌の容器を回収して退散する毎日が続きました。一度、左手に白い作業用の手袋をはめて、餌を回収しようとした時、見慣れない白い手を警戒したオスは、親指のど真ん中に狙いを定めて、全体重を乗せた嘴の一撃をお見舞いしてくれたこともありました。繁殖期が終わり、私が展示室に入ると、上の枝に逃げてくれるようになったオスですが、今でも窓の掃除で巣箱のそばに近づいた時は、私を追い払おうと、私の後ろまで、そっと降りてきます。飼育員怖さにぶるぶる震えるおしりをそのままに。そんな怖がりなのにメスのために勇気を振り絞る姿にじんとしながら、こちらもふり返ってにらみ返します。「そこにいるのは知ってるんだぞ」と。私も痛いのは嫌なので。
 そんな慎重なオスと違い、メスは少し怖いもの知らずな性格。普段は怖がりで、オスの後ろに隠れているのですが、小腹がい空いていたのか、私がまだ餌のそばにいるのに、近づいてきて、餌を食べだしたことがありました。オスはというと、あっけにとられたように、メスをじっと見て、しばらくすると、そろそろとマネを始めるではありませんか!動いたら怯えさせてしまうので、展示室で小さくなりじっとしていた私ですが、心の中では大爆笑していました。こんな2羽は、実は日本で初めて子育てに成功した優秀なペア。この2羽だから、なんだかんだうまくいってるんだな、と思わされる面白エピソードはまだまだあります。館内でも紹介していますので、私を見かけたら是非お声をかけください。
 さて最後にひとつ宣伝です。今冬、熱帯鳥類館に新しいお嫁さんが来ました。太くて大きい黄色とオレンジの色鮮やかな嘴と、クリンとした青い目を持つ、かわいいオニオオハシの女の子です。木枯らしが吹き、ものさびしいこの時期ですが、熱帯鳥類館は新しいペアの誕生でより一層活気づいています。この冬は、熱帯鳥類館に温まりに来てみませんか?

飼育担当 中村 あゆみ

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