でっきぶらし(News Paper)

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病院だより「タモふり倶楽部」

 読者の皆様、こんにちは。私は今年度飼育から動物病院係に異動した中途半端に新米な獣医師です。前回の「でっきぶらし」では、中型サルの新人飼育員として悪戦苦闘の日々を書かせていただきました。今回は病院獣医師として悪戦苦闘(またかよっ)の様子をお伝えします。
 獣医師免許を頂いて数年間、昨年朝ドラの舞台にもなった奥能登で家畜を相手にしていました。その時の経験が今こそ活かされる!と思ったらとんでもございませんでした。 
 家畜診療とはまるで勝手が違います。中でも違いを痛感したのが、「捕獲の難易度の高さ」。
 動物病院では、検査や治療、移動のために園内の動物を捕獲することがあります。以前相手にしていた家畜達は、大抵はつながれているか、狭い畜舎に飼われているか。捕獲するのにあまり苦労はありませんでした。時には牛糞で長靴が埋まるひどい畜舎で、駆け回る和牛をカウボーイよろしく縄で捕まえたりもしましたが。
 一方動物園の動物達は幸せなことに広い獣舎にのびのび放し飼い。園によっては人間に慣れさせるトレーニングを積極的にする所もありますが、当園は人間が必要以上に接触しない飼育方針のため、当然のように近づけば逃げます。中には通常状態での捕獲がほぼ不可能な動物もいます。
 そんな時の最終手段である、「麻酔銃」のチェックを先日病院獣医師総出で行いました。銃と言っても私たちが使っているのは「トリガーで撃ち出す吹き矢」と呼ぶべき物です。最近、他の園でチンパンジーが脱走し、電柱に登ったところを高所作業車に乗った獣医師がこれで仕留めました。なかなか実際に使う機会もなく、また使わないで済むに越したことのない代物ですが、いざという時にはすぐに撃てるようにしておく必要があります。銃なんて遊園地のアトラクションくらいでしか使ったことはなかったので、初めて触れる本物にドキドキでした。気分はシティハンターかアイアムアヒーローかと言ったところでしょうか(どちらもおススメの漫画ですよ)。
 また4月には、シシオザルの捕獲ミッションがありました。現在中型サル舎で飼育されているシシオザルは4頭。繁殖制限のため若いメスのテト、ナデシコにホルモン剤のインプラント手術を施すのが今回の捕獲の目的です。
 日頃目にすることは少ないのですが、シシオザルの犬歯はかなり大きく鋭いので万が一襲われたら大怪我の可能性もあります。ヘルメットを装備して防御力を上げ、大きなタモを持って獣舎に入りました。三角跳びで縦横無尽に逃げ回る彼女たちは、目で追うことさえ至難の業です。しかも放飼場の高さは4m以上。上の方に逃げられては手も足も出ません。一瞬床に着地したところにタモを振りおろし、どうにか捕獲できました。
 そしてGW明け、今度はメガドームを飛んでいるインカアジサシの捕獲に赴きました。
 ドーム入口のブリッジへ続く屋根のあるデッキに前日にネットを張り、朝食の時間にそこへ餌を撒いてアジサシを誘い込む作戦だったのですが、

隙間から逃げる逃げる。

 このくらいなら大丈夫と思っていたネットの隙間からどんどん出ていきました。3羽だけネットの中に残っていたのをタモで捕獲して午後の餌の時間に再挑戦。

…今度は餌に寄ってこない。

 完全に敗北です。トリアタマだと思ってナメてましたごめんなさい。
 アジサシ捕獲ミッションは日を改めて再挑戦することに。
 デッキに餌を撒くと、すんなり入ってきてくれました。先日のことは忘れてしまっているようです。やっぱりトリアタマなのかな?
 休園日の動物園、お客さんの見ていないところで獣医師はタモを振り回し、動物に振り回されているのです。あーしんど。

(動物病院係  山田 大輔)

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