231号(2016年08月)4ページ
チンパンジー同居復活です。
日本平動物園では、現在5頭(オス1、メス4)のチンパンジーを飼育展示しています。
動物園に遊びに来てくれている方達はご存じかと思いますが、しばらくの間、ずーっとオスメス別々での飼育展示を続けていました。「何でいっしょにいないのかなあ。不思議だね。」、「1頭でかわいそう。きっとさみしいと思うよ。」等色々な声を聞くことが多々ありました。
実はこれには理由があって遡ること10数年前、群れとして飼育されていた頃、まだ幼いチンパンジーがいました。母親をはじめ、みんなで協力し合い良く世話をして可愛がってくれていました。順調に子供も成長し、少しずつ親から離れ独り遊びが出来るようになった頃のことだったと思いますが、事故が発生してしまいました。それまで同じように可愛がっていたオスが急に子供を捕まえ危害を加えるようになり、慌てた母親が助けに入るということが頻繁に起こるようになったのです。しばらくは様子を見ながらの展示にならざるをえない状況が続きましたが、事は最悪の結果を招くことになってしまいました。飼育担当者が発見した時にはオスに掴まれて、すでにぐったりしている子供の姿です。母親は近くで慌てふためき、「ギャーギャー」と大声をあげ鳴き叫んでいました。どうすることもできなかったのでしょう。飼育員の元に戻ってきた時にはすでに息を引き取り悲しい結果となってしまいました。寝室に戻ってきたチンパンジー達は事の重大さに一様にショックを隠しきれない様子でした。特に母親は憔悴し疲れきっていました。オスは頭を抱え「オレ、何て事をしてしまったんだ。」そんな感じにもとれるほど深く反省している姿に見てとれました。しかし、残念ながらその後も同様の事例が毎年のように起こり、本当に申し訳ないこととなってしまいました。
なぜ突然、オスは何かのスイッチが入ったかのようにそうなってしまうのか。「子供の可愛さのあまり、遊びの延長でそうなってしまうのか?」また、「中々、自分の思うようにならずにストレスを溜め込んでしまい、自分をコントロールできず訳もわからないうちにふと気が付いた時には取り返しのつかない状況になってしまった。」等色々と理由を探りましたが見つからず、今後の飼育方法を考えさせられることとなり、今現在に至っています。現状の飼育方法が最良だということは誰しも思っている訳でなく、本来あるべき群れ飼育での復活を長年待ち望んでいました。
あれから10数年・・・・。
将来的に動物園としてもチンパンジーの飼育展示を充実させていく方向で何度となく話し合いが進められて来たので、同居再開に向けて準備を進めることとなりました。同じ獣舎内にいてお互いの姿、匂いを感じることはあっても、本当の意味で同じ空間の中になることは10数年ぶりです。担当者としては色々なことを考えてしまいます。動物が動物なので、もし大喧嘩になった場合、大怪我を負ってしまわないか、また成獣同士とはいえ本当に最悪の状況になってしまわないか等、不安要素ばかりが頭を過りました。同居当日、緊張の瞬間が近づいてきました。祈るように獣舎に入り、いつもと変わらず挨拶を済ませ出舎の準備です。同じように済ませたつもりが、こちらのどことなく緊張感漂う雰囲気を察してかチンパンジー達は何かそわそわしている感じが見てとれました。一部屋ずつ扉を開放し放飼場へ。いよいよオスの番です。
緊張度MAX。心臓めっちゃドキドキ。
メス達は一瞬「あれ?」とでも思ったのか、少しの静けさの後、突然大騒ぎが発生。「やばい、やっぱり予想通りか!?」
急いで外に出て様子を確認。オスの大迫力な誇示行動によりメス達は逃げ回り、不安な大声をあげ騒がしくなりました。息遣いも荒くなり全員が肩で息をするくらいです。中にはオスに向かっていくメスもいました。これにはさすがのオスも意表を突かれた感じで一瞬怯んだように見えました。
多少の傷を負っている個体がいましたが大事には至っていない様子。同居開始30分ほどで騒ぎは収まり、各自微妙な距離感を保っていました。慣れてくるとお互い近くに寄っては離れを繰り返し、さらに時間が経過すると挨拶行動や毛繕いなど群れとしてのあるべき姿を見ることが出来ました。不安要素ばかり考えていたこちらの気持ちとは裏腹に同居復活のスタートとしては100点満点です。
今後継続していく中で様々なことが起きてくるとは思いますが、何とか乗り越えてほしいです。年齢を重ねたことでオスが精神的に立派に成長したことを期待しつつ、そして赤ちゃん誕生のニュースが1日でも早く伝えられるようにチンパンジーと共に担当者達も頑張っていきます。
(飼育係 佐野 彰彦)