243号(2018年08月)3ページ
さようなら【ぽち君】
昨年の10月19日の朝、以前から体調が悪くて入院していたアンデスコンドルの♂が、死亡しました。夏辺りから元気が無くなり、採食もだんだん細くなり、今までめったにしなかった長い居眠りや、時々力無く腹這いになっている姿を見せるようになりました。獣医さん達と一緒に、最初は猛禽舎で…いよいよ具合が悪くなるとバックヤード棟と呼ばれる収容棟の広い部屋に入院させて各種の治療を行いましたが、残念ながら死亡してしまいました。それはまるで、線香花火が燃え尽きる様な静かな死でした。
彼は、1970年代に当園に来園し、そのときもう大人だったので、推定ですが少なくとも40歳を越えており、人間に換算すると非常に高齢の個体でした(死因は老衰でした)。
名前は【たかお】でしたが、実は私が過去何度か猛禽舎の担当だった頃…ずいぶん昔から私にとって彼は通称【ぽち君】でした。なぜ可愛い?感じの【ぽち君】と名付けたかと言えば、彼は、そのアンデスコンドルの外見……翼を拡げると約3メートルに達する、巨大な肉食鳥の姿からは想像できないくらい温厚だったのです。本当に温厚・温和な性格をしていて、同居していた♀が攻撃的でしつこい性格をしている為、余計にそう感じていました。歴代の担当者や猛禽舎関係のスタッフをことごとく襲ってきた♀に比して、彼に危険な行為・攻撃的な事をされた担当・関係者は一人も居ないと思います。ただ単に大人しかったのではなく、あくまで人間的な・擬人的な表現ですが、【ぽち君】は人間に対してとても好意的で優しい個体だったと感じています。
知能も大変高く、いつもと違う作業をコンドルの収容ブースでやっていると、トコトコ傍にやってきて興味深そうに見ていたり、清掃作業の際に低い止まり木に居る彼のすぐ近くを通っても、静かで柔和な眼差しで見つめているだけでした。……性格も仕草も、とても人懐っこかった【ぽち君】。彼が亡くなってから数カ月が経ちますが、今でも時々、彼の姿を無意識に捜している自分に気付く事があります。
改めて、さようなら【ぽち君】。私は貴方が大好きでした。
(長谷川裕)