260号(2021年06月)6ページ
病院だより
昨年の11月26日にシシオザルのルキというオスの個体が病院にやってきました。ルキはてんかんという病気を持っています。てんかんとは痙攣のような発作を起こす病気です。止まり木などの高い場所で発作を起こしてしまうと、落ちてけがをしてしまうことがあるため、病院に入院して投薬治療することになりました。
入院することが決まったら、まず部屋の準備をする必要があります。止まり木を設置し、落ちても大丈夫なように床にマットを敷いて準備完了です。あとは入院するのを待つだけだったのですが、入院直前にルキがてんかん発作を起こしてしまい、止まり木から落ちてお尻に大きな傷ができてしまったのです。幸い?なことに入院直前だったこともあり、獣医さんがすぐに傷を縫合することができましたが、お尻の傷が悪化しないように抗生剤の投薬も追加されてしまいました。とは言っても薬が1つ追加されただけなのでそこまで負担が増えることはありません。難しいことは特にないだろうと考えていましたが、そう簡単にはいきませんでした。
ルキに出された抗てんかん薬と抗生剤はどちらも粉薬でした。人間のように薬を渡して自分から飲んでくれるのなら楽なのですが、動物の場合はそうはいきません。そのため、リンゴやバナナ、ブドウなどの餌と一緒に食べさせます。ルキも同じように餌を使うことで、すんなりと抗てんかん薬を投与することができました。しかし、抗生剤はそうはいきませんでした。最初は抗てんかん薬と同様に食べてくれたのですが、すぐに抗生剤入りの餌を見分けて食べなくなりました。実は抗生剤は苦い薬なので、ルキとしては食べたくありません。そのため、抗生剤を食べないように全力を注いできたのです。
ルキは警戒心がとても強く、一度気づかれてしまうと薬を食べさせるのも一苦労です。用意された餌の匂いを嗅ぎ、薬が入っているかどうかを調べます。匂いで気づかなかったとしても次に目で見て確認します。リンゴやバナナ、煮イモに粉末がついていないかどうか、切れ込みや穴をあけた跡があるかどうかなどをじっくりと観察します。これらのチェックをクリアしてようやく食べてくれるのですが、食べたとしても安心できません。口に入れて少しでも薬の味がすると吐き出されてしまいます。そのため見た目や匂いで気づかれないようにしつつ、味も誤魔化さなければいけません。いろいろ試した結果、プルーンに薬を入れて与える方法が一番食べてくれるのですが、同じ方法を繰り返していると気づかれてしまいます。そのため色々な方法を試すのですが、食べてくれないこともしばしばありました。
現在は、奮闘の甲斐あり傷が悪化することなく治ってくれたので、てんかんを抑える薬のみを与えています。今後、このルキとの攻防が繰り広げられないことを祈ります。
(杉山 友祐)