でっきぶらし(News Paper)

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「サイチョウ・ナナミは かまってちゃん」

 病院には黒い体に橙色の嘴を持つ大きな鳥、サイチョウがいます。その名も「ナナミ」です。ナナミは目を怪我して雄との関係がこじれてしまったため動物病院で暮らしています。

 病院暮らしのナナミの一日は朝の見回りに来た人を吐き出した餌を咥えて出迎え、その人とその吐き出した餌を渡し合う遊びから始まります。

 そして掃除の時間になると寝室から外の部屋へ両足ジャンプという可愛い歩き方で出ていき、掃除が始まると部屋の横を通る人にちょっかいを出したり、車のバック時のかけ声「オーライ!オーライ!」に合わせて大きな声で鳴いたりして遊んでいます。

 ご飯の時間には「ばっちこい」とキャッチャーのように離れた所で口を開けて構えていたり扉の前でそわそわしながら待っていたりします。

 外部屋から帰る時になると両足ジャンプで帰ることもあれば豪快に羽音を鳴らしてかえって来ることもあります。最後の施錠時にも目を輝かせて担当者に渡す餌を咥えて待ち構え、朝と同じ遊びをして満足してから就寝することでナナミの一日は終わります。一日中かまってちゃんな鳥です。

 しかし、最初からかまってちゃんだったわけではなく初対面時はやんちゃでした。

 掃除の時間も部屋に居座り、嘴で木を殴って威嚇するような行動や扉の隙間から長靴に嘴の連続猛アタックをするなど、目の怪我はどこへやらと思うほどやんちゃで急に大きな音を出して担当者を驚かせたり、体を上下に揺らして闘争心を表すナナミとの関係はボロボロだったと思います。

 ナナミの飼育は部屋を仕切る扉が閉まるまで緊張が止まらず、あの木を削る大きな嘴の餌食にはなりたくないけれど、姿が見える度に威嚇され続けては健康管理もしっかりとはできません。

 そこで始めたのがブドウのキャッチボールです。ご飯の時間や掃除の際に好物のブドウを移動してくれたお礼に、投げて献上するというのを繰り返しました。最初はスムーズにお互いが嫌な思いをせずに移動できるようになれれば良い一歩だと思っていましたが、ナナミには大きな効果があったようでした。

 このキャッチボールはサイチョウの好意を示す行動である「餌のプレゼント」に当てはまったようで、しばらくするとナナミから餌を渡そうとしてくるようになりました。

 初めて受け取る時、急に攻撃されたらと心配でしたがナナミは早く受け取って欲しかったのか手のひらの上にポンと置かれました。受け取ってもらったことが余程嬉しかったのか、ナナミは愛のたっぷり詰まった涎まみれの餌を毎日渡す「かまってちゃん」になったのです。

(土井 千乃)

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