でっきぶらし(News Paper)

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チンパンジーとオランウータンと… 異種の同居?U 

松下憲行
 オランウータンのジュンは昭和五十七年五月三十一日生まれ。チンパンジーのリッキーは昭和五十八年二月八日生まれ。まだ子供もいいところである。が、腕白盛りでオスどうし、遊びは相当に荒っぽい。ふたりがじゃれ合っていて、「遊んでいる」と受け止めるお客様は意外に少なく、特に子供達にとっては「喧嘩」としか受けとめられないようだ。時々ではあるが、リッキーがすさまじい悲鳴をあげることもあるのだから、「遊び」を「喧嘩」と誤解されても、やむを得ない一面があるのも確か。
 その時々、程度を越えて本当の「喧嘩」になるのも、相手がいればこそである。その辺の有難さが充分に見に沁みているのは、私とジュンで、リッキーはさほどでもなく、意外と淡白。その訳は…。
 ふたりは仲良く同居し始めてから、ジュンに二日、リッキーに一日の別居生活があった。まず昨年十一月二十三日のこと。ジュンが三十九度の熱を出してダウン。やむを得ず放飼場にリッキーだけを出したのだが、「ギャー」とも「ホウホウホウ」ともわめかない。「タオルさえあれば結構です。お友達なんていりません」て調子で、たまたま勤労感謝の日で賑わった観客を見て、それだけで御機嫌だったのである。人工哺育故の社会性の乏しさと言ってしまえばそれまでだが、あまりの淡白さに少々あきれ返ってしまった。
 それから四日後、今度はリッキーのほうが熱を出した。今度はジュンのほうがひとりぼっちの番になったのだが、さぁたまらない。静かだったのは朝方の一時間ぐらいだけで、後は狂奏曲の連続。私と顔が合う度に「ウギャギャアー」と強烈な悲鳴。接触時間をいつもの倍以上に増やしたが、とてもそんなもので収まるものではなかった。リッキーの早い回復を必死で願った。
 ジュンは風邪が原因の発熱。リッキーのほうは犬歯を欠きかつ歯茎を傷めたのが原因だったのだか、如実に表れた内側の性格には恐れいった。リッキーに対しては心のつかみにくい個体と思ったのも事実。“タオル”さえあればいいなんて…。
リッキーの歯が欠けたのは、その時が初めてではない。二度目である。動物のしつけに対しては厳しいことで定評のある私が、実はそのことで大変誤解されたことがある。
 まだ完全に私の担当になっていない頃、当時リッキーのマイホームだった病院に、午後三時過ぎになると帰していたのだが、ある日獣医がリッキーの歯を見てびっくり。上の門歯の左側が少しながら欠けていたからである。
 その頃のリッキーは、何せ我がまま気ままで通っていた。気に入らなければ誰彼なく咬みつく悪癖も身につけていた。そんな我がまま気ままを私が最も嫌うタイプであることを、獣医はまたしっかりと承知していた。だから、七度尋ねる前に私を疑ったのである。リッキーが何か悪いことをして、厳しく叱られたのではないかと。
 確かに私は動物のしつけに対しては、厳しく臨む。観客が見ている前でも、リッキーを度々叱っている。我がまま気ままに一切妥協しなかったからだが、まさか歯が欠ける程はやらない。いくら叱っても“顔”をひどく傷つけるようなことはしない。そこまでやってしまうと、それはもう恥。叱る資格はないと言っていいだろう。
 歯が欠ける程叱ったなんて、大いなる誤解である。獣医が言うには「その割に顔がきれいなので、おかしいとは思った…」。
 ジュンとリッキーの遊びは荒っぽいと書いたが、これでお分かり頂けるだろう。鉄格子を縦横無尽に使っての追い駈けっこ、組んずほぐれずのレスリングごっこは、時には歯が欠けるぐらい、荒々しいのである。
 それにどうしてもリッキーのほうが負けてしまう。まず年令差。それが三kg強の体重差となってパワーで圧倒されてしまう。次に環境、地上を駈けるのならお話にならないが、鉄格子では逆転、ジュンの動きに対応し切れない。地上は歩くのが精一杯のオランウータンも、樹上では全く違ってくる。それと同じ条件の鉄格子は、格好の運動場なのである。
 遊びの中でもジュンは、上から横から自在にリッキーを追いつめている。上から押さえつけて覆いかぶさる。リッキーはそれを振りほどき、少し逆襲しては逃げる。すかさずジュンが追い駈ける。疲れるまでやって、いやになったら互いに知らんぷり。たいていお決まりのパターンである。
 そのせいであろう。ジュンの毛はふさふさしているのだが、リッキーの体のあちこちの毛はすり切れている。特に背中の下の部分、手足の関節の部分が、薄くなってきている。しかし、こればかりはどうしようもなく、リッキーが体力負けしなくなるのを待つしかない。もっとも、その頃にはお別れが来るかもしれないが…。
 そう、異種の同居はいつまでも続けておくべきではない。確かにリッキーのおかげで、ジュンは非常に落ち着き、仕事はし易くなった。が、こう言う状況は、早く解決しなければならない問題でもある。
 今は、この一時を大事にしよう。少なくとも泣きわめかれる辛さから解放されている。ジュンを抱っこ、リッキーをおんぶしての朝の散歩、いつしか楽しい思い出となるだろう。

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