89号(1992年09月)8ページ
カメラが追う悲喜こもごも【エンペラータマリンの帝王切開】
いつ生まれるのか、もう生まれてよさそうなものの、一向に生まれる気配なし。お腹は、もうはち切れんばかりの大きさなのにです。
やきもきがピークに達しようとしたある朝、エンペラータマリンのメスが室内で動けずうつぶせになっているのです。何か力んでいるようですが、体に力が入らないようでもありました。
警戒していた最悪の予測が現実となり、今、目の当たりに。明らかに陣痛がきているのですが、とても自力では生める様子ではありませんでした。
後は、獣医に任せるしかありません。「帝王切開する」との即座の応答にはドキッどころか母子共々見納めと覚悟しました。
せいぜい三百五十から四百gしかない母体が、スパッとメスを入れられてそれ相当に出血すれば、とても持つまいが実感でした。過去の何例かも、助かったケースはありません。
とにかく、記録。結果はどうであれ、後々の為に必要です。獣医のほうも、即座にほしい、と返答。しっかり撮っておいてくれの本心がありありでした。当然でしょう。
両手両足を張りつけのようにしてしばられ、麻酔薬をかがされ、獣医がメスを入れてしばらくすると、実に大きな赤ん坊が二頭。一頭はまだかすかに息があり、一瞬色めきだちましたが、ほんのひと時でした。
体重を計ってビックリ。前回の四十七gと五十二g(共に死産)の合計九十九gも相当の重さだったのに、それ以上の四十八gと六十gの超ビックな赤ちゃんでした。陣痛がきても、生めずにへばってしまった訳です。
人馴れしていることも幸い、後の治療が容易にできて、幸い母体は命を取り止めました。九分以上諦めていただけに、獣医がなんと大きく見えたこと。素直に感謝です。
もう無理でしょうが、帝王切開などの記録より、エンペラータマリンの母子の写真を撮りたかった、偽らざる気持ちです。
(松下憲行)