116号(1997年03月)7ページ
動物病院だより
前号でお伝えした通り、釧路市動物園よりレッサ―パンダのメス(かあさん)が来園しました。
現在日本国内では200頭近くのレッサーパンダが飼育されています。レッサ―パンダには2つの亜種があり、中国系とヒマラヤ系に分けられます。日本では飼育されているその9割が中国系です。この中国系の飼育されている数は全世界でも320頭ほどですから、この中国系レッサ―パンダの種の保存において、日本の動物園は大きな役割を果たしているといえます。しかし順調に増えてきたレッサ―パンダなのですが、ここにきて問題が出てきました。飼育頭数は増えているのですが、ここ数年繁殖していないペアがかなりあり、繁殖しているペアがかたよっていて、近親交配が心配されるようになってきました。
そんな状況で当園はレッサ―パンダの国内登録を担当しており、現在当園にいるオス(シンシン)は日本に他にいない血統なので、どうにか繁殖をと願っていましたが、発情さえここ数年見られないという状態でした。そこで釧路市動物園より中国生まれのメスを貸してもよいとの話があり、かあさんの来園となりました。
そして今年の2月5日に釧路から、かあさんがやって来たのですが、最初顔を見た時「気が強そうだなあ」と感じたのですが、その印象通り2、3日は盛んに威嚇していました。そして少しは環境に慣れ、検疫も終わった2月11日に子供動物園に移動しました。一週間ほど檻越しに見合いを続けて、もうそろそろだろうと室内で同居を試みました。最初は距離を置いていたのですが、2時間ほどして取っ組み合いのけんかになってしまい、すぐ分けることになりました。これがかなりかあさんに堪えたようで、しばらくしょぼくれていました。もう1頭のメスであるミミとは問題はないのですが、シンシンとはその後何度かトラブルを起こして、やがてかあさんはシンシンに脅えるようになってしまいました。最初から上手くゆくとは思っていませんでしたが、これはちょっと長期戦になりそうだと感じずにはいられませんでした。
現在も放飼場に一緒に出しても、餌の時以外はシンシンとミミが木の上にいて、かあさんが下でじっとしていることが多く、時折シンシンが木の下に降りて、かあさんの近くを通るとかあさんは毛を逆立てて脅えるという状況が続いています。その一方で、餌の時間になると顔を付き合わせんばかりにして餌を食べていても平気なようで、また雨の時などはかあさんも一緒に木の上に登っていて、その場合は問題ないようです。
担当者も状況を好転させようと、あの手この手でやり方をいろいろ試してがんばってくれています。シンシンが10才、ミミが11才、かあさんが推定9才でレッサ―パンダとしては結構高齢になってきています。しかし他の園館では13才でも立派に繁殖している記録があり、そのペアは健在です。しかし残された時間が少ないのは確かで、1年1年が大切になってきました。レッサ―パンダの発情は春先で、今季の繁殖は難しいですが、次回の繁殖につなげたいと思っています。
(金澤裕司)