70号(1989年07月)5ページ
一九八九年繁殖動物を追う 松下憲行【オグロワラビー 今年は好成績】
日本平動物園の唯一の有袋類になってしまったオグロワラビー、今年の繁殖は順調だといいます。どの母親も、袋から落とすことなく無事に育てているとのこと。何よりです。
袋からそんなに簡単に落ちるものか、と思われますか。その通りです。いとも簡単に落っこち、実に多くの赤ん坊が、それが原因で死んでゆきました。
かって袋の中の子を容易に見せてくれたビビ、いま母親まっ只中のヒロ、この二頭はかってそんな“不幸な事故”に遭遇しています。運がよかったのは、飼育係の発見が早かったのと体力がかなりついていたことでした。
生まれた時は、子指の三分の一ぐらいの大きさ(そんな赤ん坊が、袋に入るのに失敗して落ちてしまったこともあった)。ビビ、ヒロを育てた担当者は、五百gぐらいにまで育ってくれていることが目処、それ以下ではちょっときつい、と語ったことがありました。
それぐらいむつかしい、人工哺育。人工乳を子の体が受けつけてくれるかどうかが、キーポイントになります。
そんなに苦労しながらも、結局は、親が育てた子にはかないません。当たり前のことですが、親に育てられた子は自然にルールを学び、飼育係に育てられたほうは群に戻ってから、一つひとつルールを覚えてゆかねばならないのですから―。
そのような意味合いでも、袋から落ちないで育ったことは朗報です。今後も、穏やかな日々が続くことを願ってやみません。