70号(1989年07月)13ページ
友の会コーナー【野生動物が哭いている(スローロリス事件からサイテス
村松卓明
最近、スローロリスの密輸事件が、ニュースなどで流れており、知っている方の多いと思います。今回は皆さんに、この事件の概要そしてサイテス(ワシントン条約)について話してみたいと思います。
今年の5月3日、成田税関に手荷物で、スローロリス50匹が持ち込まれました。スローロリスはサイテス付属?U(とりあえず絶滅の危険はないが、取り引きを規制しなければ、絶滅の恐れがあるもの)で規制されており、輸入には輸出国の輸出許可証が必要です。この時は、タイ政府の輸出許可証があった為5月6日、税関は通関を許可しました。しかし6月になって、タイ政府から『許可証は偽造である』との連絡が入りましたが、この時すでに遅く、スローロリスは一匹15〜20万円にて売られた後でした。そして6月3日、同一人物が今度は60匹を同じ手口で持ち込もうとしたため摘発され、スローロリス60匹の所有権を放棄しました。この60匹のうち38匹が数日中に死亡、残り22匹は、日本モンキーセンターに送られましたが、9月4日現在では、生き残りはわずか3匹。持ち込んだ男は、なんの処罰も受けていません。(朝日新聞社AERA、89,7.4珍獣たちの天敵ジパング、89.9.4.NHKニュースTODAYより)以上が概要です。
問題は?@・生後1〜3ヶ月のスローロリス計110匹をどうやって集めたのか。?A・タイ国内でサイテス該当動物は、どのように扱われているのか。?B・日本国内のサイテス該当動物の扱いはどうなっているかです。
まず?@についてですが、現地で人を集め、スローロリスの親子を探し木に登って親を殺してから子を捕らえる・又は、木をゆらしたり、たたいたりして下に落とし捕らえる。という様な方法がとられている様です。現に日本で死亡した個体を解剖すると、至る所に内出血が見られたそうです。
次に?Aについて、タイの法翌ナは“サイテス該当動物も含め、野生動物を2匹までなら飼育しても良い”というのがあります。この法翌?上手に使えば、タイの市場などで1回に2匹までなら、サイテス該当動物を店頭に並べ売買が可能なのです。この法翌ヘ、動物の為に早急に改める必要があるのではないかと思います。
?Bについて日本には、サイテス国内法がありますが、動物園を除いて殆ど適用されていないのが現状です。そして許可証偽造の判別についても、今の方法では税関での確認がとれません。この事について、政府はようやく動き出している様ですが、サイテス批判からもうすぐ10年、ようやくというのは遅すぎる、と思うのは私だけでしょうか。
さらにサイテス該当動物を欲しがる人は、一般に言う「お金持ち」が多数を占めています。“人の飼育していない動物が欲しい・人の持っていない物を欲しい”という気持ちが分からないでもないのですが、少しわがままが過ぎるのではないでしょうか?その様な人達が、あまりにも多い為に、密輸ブローカーが後を絶たないのです。
ここまでいろいろと述べてきましたが、サイテスとは「絶滅の恐れのある動物の保護」が目的です。本来ならば、これに該当する動物は、数種類でいいはずなのです。しかし身勝手な人間により、絶滅しようとしている動物が数100種もいる以上、今までのツケを浮、べきではないでしょうか。この事件をきっかけに、動物園を通じて、動物達をよく理解しなければならない私達から、動物保護・自然保護について、考える必要があるのではないかと思います。今、一度…
「第2のトキを作るも作らないもすべて私達にかかっているのです」