97号(1994年01月)11ページ
人工哺育 その個体を追う(その2)★キリン、オスとしての行動は・・
今は亡きトクコ、母親からいったい何を学んだのでしょう。眼の前で何頭かの弟や妹が育っていくのを見ながら、彼女は、それは母親のすること、私のすることではないと学んだのかもしれません。
生まれて立ちあがってオッパイを吸いにきた我が子に、いきなりハイキックを見舞ってダウンさせる母親なんて、どの世界にいるでしょう。それがトクコでした。
後は、飼育係が頑張るしかありません。ウシの初乳を求めて東奔西走していた日々が懐かしく思い出されます。御存知と思いますが、初乳には病気に対して免疫性ができる抗体が含まれています。与えると与えないでは、生命の保証度がぐんと違ってきます。
ところで、キリンの子が鳴くのを聞かれたことがあるでしょうか。担当者の話では、お腹が空いてくると「モッ、モッ、モッ」と小さく低い声で鳴き続けたそうです。他園のでは、もっと長く鳴き続けた例があるようです。
草食獣故に同居させながら人工哺育された子は、最初はメスでした。当然担当者は次を考えました。悪循環を断ち切るべく、介添保育を念頭においた接触を考えたのです。
娘盛りを迎えるか迎えないかの途上での突然の死は、ただの傍観者であった私ですら相当に辛いものがありました。担当者の心中、察するに余りあります。
残ったのは、オス。今度は交尾能力が求められるでしょう。幸い同居しているメスのキッコとの交尾が観察されています。
四郎も今年の四月で六才になりそろそろ父親になってもいい年頃となってきました。
はたしていつ、赤ちゃん誕生のニュースがきかれるか、楽しみなところです。(松下憲行)