99号(1994年05月)10ページ
あらかると「オランウータン・ベリーのそわそわ」
私は毎朝、オランウータン、ベリーの体温を測定しています。それがある時期になると、彼女は精神がハイの状態になるのです。
ふだんは、体温測定の為に彼女の部屋に入って隅を指差しただけで、所定の場所に座るので容易に測定できます。が、ハイの時期は部屋に入って指示しても天井にいて、オリ、扉、ガラスなどを軽く叩いてみたり、両手や体を揺すったりしてしばらくは所定の位置につこうとしません。数回声を出してやっと座ります。
体温測定の間も、長靴やポケットの中も覗いたり、運動靴だとひもをほどくわ、無線機を持っていればそれもいじり、体こそじっとしていても体温計をはさまれていないほうの手で悪戯をしまくります。このような状態は三、四日続き、その後は何もなかったようにふだんの素直な状態に戻ります。
これはある日と一致します。オランウータンは人に最も近い動物のひとつで、性周期などは人とほとんど変わりません。ベリーの場合では、1〜20日まで36.7度以下の低温期、21〜23日は36.7度以上の高温期、24,25,26,27,28日はまた低温期で26、27,28日は月経とだいたい28日周期となっていますが、いわゆるハイの状態は高温期に現れます。
つまり、いつでもどうぞというオスを誘うサインを出しているのです。そうなるとオスのジュンは、ふだんにも増してしつっこくベリーの後をつけ回して交尾行動を取りにゆきます。
二頭を見ていたら、ベリーを横に寝かすのにサインらしいものがあるようです。彼女の腕や足を軽くジュンが叩くと、ベリーはすぐに横になってジュンのグルーミングを受けます。
それを見て、私も同じようにしたらベリーが横になってくれるかと思い、次の朝の体温測定の時に試してみました。素直に横になってはくれましたが、※グルーミングまでは許してくれませんでした。
ああ、やっぱりベリーはジュンのものでした。分かり切っている当然のことに、私は妙に納得させられました。(池ヶ谷正志)
※グルーミングとは毛づくろいとも言われ、互いの親交を深める為のあいさつ行動