99号(1994年05月)13ページ
動物病院だより
今年の夏は非常に暑い日が続いています。毎日気温と体温のどちらが高いかと思う程の猛暑ですが、みなさんはこの暑さに打ち勝っていますか。
先日から、動物園の動物達は暑さに参っていないかとマスコミが多数取材に訪れていたようです。確かに園内の動物達もこの暑さはこたえるようで、いつもと違った様子の見られるものもいます。クマやゾウ、ゴリラなどはしきりにプールに入っていますし、いつもは濡れることを嫌がるネコ科の猛獣達も、水を体にかけられても気持ちよさそうにしています。園内の焼けたアスファルトの上を歩いていると、そんな彼らがとても羨ましく思えてきます。
夏になると「もともと寒い地方に生息している動物達は暑さに耐えられますか。だいじょうぶですか。」とよく聞かれます。日本平動物園では、極地のように寒い地方に生息しているような動物はホッキョクグマなど数える程しか飼育していません。また、これらの動物も体調を崩さない限り静岡の暑さには十分耐えられるようです。今年になって新しく飼育をはじめたユキヒョウも、ネパールなどの標高千から五千メートルという高地に生息する種で、毛が密で長く、寒さには強いが暑さは苦手と言われています。静岡で迎えるはじめての夏。暑さに適応できるかと多少心配していました。少しバテぎみの感がありますが、何とか気候に馴れてくれそうです。
「とても暑い夏」と「とても寒い冬」を比べるとみなさんはどちらの方がましだと思うでしょうか。もちろん両方ともありがたくはありませんが、あえてどちらと聞かれると「夏」と答えます。個人的に冬が嫌いというわけではありません。しかし冬の寒さは少しでも弱った動物がいると、あっという間に体温を奪い去ってしまいます。そんな厳しい季節のことを思うと今の暑さには多少目をつぶらないといけないなという気になります。
動物達は人間が思うよりもずっと暑さに対しては強そうです。猛暑で一番参っているのは恐らく人間でしょう。そう思いつつ園内をまわっていると、暑さでバテバテの自分が動物達に笑われているような気がします。クーラーなどの文明の利器の恩恵から一歩外に出ると、野生動物との生命力の差は歴然としているようです。(高見一利)