56号(1987年03月)4ページ
動物の食べ物 第六回【小型サル】
俗にポケットモンキーといわれる小さな小型サル達、意は恐らくそれぐらい、つまりポケットに入るぐらい小さいということでしょう。実際、成獣になっても三〜四百g、そんなものではないでしょうか。かってコモンマーモセットの赤ちゃんを人工哺育にせざるを得ず、その時に体重を計ったら、なんとたったの二十三gしかなかった、ということです。
以前、誰と何の話をしていた時でしょう。真横で「あんなのは野生ではいないでしょう。あれは人間が造ったものなんでしょ」と問い返されたことがありました。申すまでもありませんが、彼等も立派な自然界の一員、霊長目のキヌザル科に属するサルです。生息地は南アメリカ、たいていの種は何百という群れをなして生活しているといいます。
飼育はむつかしいのでしょうか。これに近い仲間のリスザルは、ひとりぼっちにするとそれだけで死んでゆくといわれています。社会性が強い為に、孤独は強烈なストレスを招くようで食欲すらも奪い、結果として内的な病変が生じて死んでゆくようです。…マーモセットとか…タマリンといわれるこの仲間も、多分にその傾向はあると思われます。
そうそう食べ物の話です。何をどう与え、どう食べているかを語らねばなりません。以前にも書きましたが、彼等の棲んでいる世界を考えて下さい。うっそうと繁った森林の中です。取り巻いているのは、木の芽、葉、花、実、種、そしてそれらに群がる小鳥やその卵、小動物、昆虫がいます。当然、そのいずれも、採(捕)って食べていると考えるのが妥当でしょう。生息場所や種によって比率が違うだけかと思います。
そう、その比率を見抜くというか、植物食と動物食のバランスを保つことは、簡単なようで結構大変なことです。誤れば、彼等自身を病気にしてしまうか、何とか子が生まれても育たない状態を招いてしまいます。
それは私自身が、かって何度か繰り返した苦い経験であるし、サルを飼育する者に 最初に立ちはだかる“壁”である、といえなくもありません。だからといって、これが正しい飼育法なんていうのがある訳ではありません。あえてひとつの心構えがあるとすれば、南アメリカに棲むサル類には、動物性たん白質に対して嗜好性の高い種が多いので、他のサル類より多く与えたほうが安心できるということでしょうか。
今は、サル用固形飼料を粘って、その中にハチミツ、ミルク、キナコを混ぜ合わせた物を主食に、果実類や野菜、ヒマワリの種、ミルウォーム(ある昆虫の幼虫)等が与えられていますが、これとて絶対の方法ではありません。主に使用している飼料の入手困難、あるいは健康状態や繁殖状況が芳しくなければ、当然見直しを迫られるでしょう。
近年、キナコが使用されるようになったのは、その最もたるものでしょう。凍傷にかかる個体が増えて思案。血行を良くするビタミンEを多く含んでいるので与えてはどうか、との理由から使用され始めました。効果の程は聞いておりませんが、前向きの工夫であることだけは確かです。