56号(1987年03月)5ページ
動物の食べ物 第六回【キツネザル(お化けザル)】
更に考え込みたくなるのは、お化けザル(英語でレム―ルは幽霊、お化けの意)のたぐいです。ただ喰わせるだけなら、果実類と野菜類に程々の動物性たん白質を与えておけばよいのでしょうが、所詮それらは“代用食”にしか過ぎません。彼等の生息地であるマダガスカル島にあるものとは、似ても似つかぬものばかりでしょう。
かって隆生を誇ったハイイロキツネザルも、今や一頭しかおりません。それもなんとか、かろうじて展示している状態です。
年を取れば病気勝ちになり、繁殖も望めなくなるのは至し方ありません。が、糖尿病にかかって弱っていったなんて聞くと、いささかどころか、大いに驚き、疑問も湧いてこようというものです。
日本平動物園において、今まで三〜四十種の霊長類が飼育されましたが、糖尿病にかかったのはこのハイイロキツネザルだけです。メダケ等の低カロリーで繊維質の強いものが与えられたりして、特に気を使っていたにも拘らずです。
これだけではありません。クロキツネザルの場合は、片方の眼が白内障、もう一方の眼は緑内障にかかり、完全な失明状態を招きました。老齢からきたものならやむを得ないでしょう。が、これもすっきりそういい切れない一面があり、かつ食生活のバランスにも少なからず疑問が湧いてきます。
先程と同じようないい方ですが、だからといって、これだという解決法がある訳ではありません。個体の弱さと代用食の限界が重なり合ったら、もうお手上げです。クロキツネザルの場合、それでもちゃんと子を生んで育てたことが、せめてもの救いとなりました。
何もかもこうであったら、飼育する側はたまったものではありません。神経がすり減って、いささか妙な気分にされてしまいます。まあ気が楽というか、ワオキツネザルやエリマキキツネザルのように、何でも良く食べ病気もせず、なおかつ順調な繁殖も見せてくれるのもいることです。今だって、五月の日の光をいっぱい浴びるように、ちっちゃな赤ん坊が母親の胸にしがみついて、空を見上げているのですから―。