でっきぶらし(News Paper)

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シャンティーの歯の抜け代わり そしてくすりと細菌の戦い 〔前編〕

 話は遡ること、アジアゾウの(メス)シャンティーが近頃餌のさつまいも等を自分の足で唐ンつぶしてから食べるような事が多く、どうも口の中に何らかの異常が起こっているのではないか?と、担当者から私たちの耳に入ってきたのが、昨年の3月頃。
 ひょっとしたら歯が(臼歯)抜け代わるためではないかなと担当者と一緒に口腔を覗くと確かに右の臼歯が前方に迫り出でてきている。もうじき抜け代わりだな、そう確信した。ゾウの歯は、一生に4,5回抜け代わるといわれています。前回抜け代わるわったのが4、5年前だからそろそろ代わってもいい頃だなと、全員がうなずいた。

 人の歯の抜け代わりはどうだろう。0才から乳歯が生え始め、3才までに上下合わせ20本生えます。そして、6才頃から乳歯が抜けて、代わりの代臼歯が生え始めます。次に乳歯の奥に、大きな大臼歯が上下左右で12本生え加わります。20本の生え代わった歯と、12本の大臼歯を全て永久歯と呼び、人間の歯は全部で32本あります。
 一方ゾウの歯はどうでしょう。上顎に通称(牙)と呼ばれている切歯が左右1本づつ、そして、小臼歯と大臼歯左右上下合わせて24本、牙と合わせ全部で26本の歯をゾウはもっています。そして歯の抜け代わり方が、人間は乳歯の真下から永久歯が持ち上げられるように生え代わりますが、ゾウの歯は下顎を前後に動かして餌を食べるため、他の獣畜と生え代わり方が違い、奥歯の方から磨り減った歯を前方に押し出すように生え代わります。

 では、何故歯が抜け代わるのか?その理由として、人間の場合は、1つの歯を支えている顎(骨)が体の成長と共に大きくなってくるため、必然的に大きな永久歯に代わります。また、乳歯は柔らかくて食べ物を砕くには耐えられなくなり、硬い永久歯へと代わります。ゾウの歯についても同じ事がいえます。ただ違うことは食べ物を挟んだり、細かく切ったりする役目をする(前歯)、犬歯がないことです。しかしゾウは餌を食べやすい長さ、大きさにすることができる器用な鼻を持っています。
 話しは元に戻りますが、歯を観察しているときに、牙の周囲もよく見ると、白い物が付着しているではないか、それを手に取ると、ねばねば感と異臭を感じとった。これは歯槽膿漏ではないか″・・・・。

 近年牙が見えない野生のゾウが多くなってきているそうです。喩え見えてもそれは短く、先端部分のみ。これは象牙の密猟によるもので、太く長い立派な牙を持つゾウが減少し、短い牙しか持っていないゾウだけがその数を占めはじめ、このゾウ同士が繁殖しても立派な牙を持つゾウが生まれることが少なくなり、このため短い牙しか持っていないゾウが増 えてきたのです。シャンティーの牙は以前途中から折れてしまい、外観からその様子は分かりにくい。
 早速治療開始だ。生理食塩水で患部をよく洗浄し、抗生剤軟膏の注入、消炎剤塗布、これを朝夕2回、昼は洗浄を日々繰り返し2週間が過ぎた頃、膿漏は止まらない、その上歯肉も赤く腫れてきた。そこで今使っている抗生剤が、本当に効いているのか薬剤試験を実施。結果、現在使用の薬剤は無効、他の薬剤の方が効果があることが判明し次の日から薬剤変更、この繰り返しが数ヶ月続き、ようやく平成12年の暮れ、薬効の甲斐ありどうやら膿も腫れも治まり完治?。やれやれ長い闘いだったなと安堵の溜息をしていた。

 ところが年が明けて間もなく、再び牙の周りから膿が出ていると一言、担当者から聞かされた。脳裏に一瞬昨年永い闘いの光景が思い出され、 あ然・・・・・
 今まで菌に耐性が出来たりして、抗生剤は5種類ほど変更してきた。2〜3週間すると今まで使用していた薬が効かなくなってしまったからだ。膿の原因はブドウ球菌だが、彼らも生き延びるために日々薬と闘い、自分たちを少しづつ変化させ、薬に負けない菌体を作ってきた。そして辛うじて生き残ったわずかな菌たちは、我々の攻撃にもめげずその数を少しずつ増やし、再びゾウの歯肉をむしばんでいく。
  (後編に新薬登場 乞ご期待)

(海野 隆至)

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