40号(1984年08月)12ページ
8月 病院だより
ようやく秋風がふき始め、青空にうかぶ雲の形も、日々秋の様子をうかがわせてくれるようになりました。今年の夏は、ほんとうに暑かったですネ!静岡で最高37度にもなったとか・・・。皆さん、ここにきて夏バテしていませんか?
動物も、夏から秋にうつりかわる時期が、一番体調をくずす時で、獣医日誌も診療事項がふえてきます。
先月号でお知らせしたピューマのオスは、残念ながら8月22日、24日間絶食した末、死亡しました。解剖してみると、肝臓に癌ができ、肺、副腎などにも転移していました。餌を食べなくなってから、眼が黄色に濁ってきたり、粘膜が黄色になり、たぶん肝臓に疾患があるだろうと、強肝剤や抗生物質を吹矢で注射していました。
犬や猫といったペットですと、飼い主に持っていてもらい血液検査をしたり、体温をはかったり、ミルクなど飲ませたり、輸液をしたりと方法はあります。しかし、野生動物ですと、採血する為には麻酔をかけなかればならず、弱っていればそれだけで死亡してしまう恐れがあります。ですから、こういう状態になってしまうと、なんとも消極的な方法で治療を行なわざるを得ないのです。
このような診療は、どこかやりきれない気持ちがあります。毎日、毎日獣舎をのぞくと、餌を一口も食べず、ただじっと横たわり、注射をしようとすると精一ぱいの威嚇をしてきます。そして死亡する2日前に注射した時、右目からポトリと涙がこぼれ落ちたんです。『いや、まいりました!』
さて、しんみりとした話の次は、おめでたい話をしましょう。出産のニュースです。
はじめは、小型サル舎にいるアカテタマリンが8月22日に出産しました。この小さなサルは、名前があらわすように、手首から先がダイダイ色、他は黒というとってもユニークないでたちをしています。赤ちゃんもこのスタイルで、だいたいはお父さんの背中にしがみついていて、授乳のときはお母さんのところへもどっているようです。ちょっと見つけにくいかもしれませんが、今度来園した時に注意して見て下さい。
次は、モンキーアパートの住人のダイアナモンキーで、8月24日に出産しました。このお母さんは、1978年7月6日にこの動物園で生まれた個体なので、これで3代目が誕生したことになります。この娘のお母さん(おばあちゃん)は、1回目と2回目のお産の時、子のあつかいができなくて人工哺育にきり換えた経緯があったので、どうかなと心配していました。しかし、この娘は最初から落ちついたもので、胸にしっかりと子を抱き、母親の貫禄充分といった感じに見うけられ、これならりっぱに育ててくれると思います。これで、ダイアナモンキーの一家は5頭になりました。
他に、熱帯鳥類館で、アオショウビンが繁殖し、シカ、ワラビー、バーバリシープなどの赤ちゃんも生まれています。
動物園といった小さな動物社会にも、生まれてくるもの、死亡するものがいて、歴史がつくられてゆきます。さあ、あしたはどんなことがおこるでしょう!
(八木智子)