140号(2001年03月)3ページ
〜あらかると〜 八木獣医との思い出
今年の人事異動にて当園の女性獣医八木さんが動物園から旅立つ事になりました。長年、動物たちの母親代わりのようにみんながいつも健康であるように尽力してきた八木さん。女性獣医としては日本の中でも先駆けであったと思います。 私が幼い頃からの夢であった飼育係りに念願かなってなり、希望に満ちあふれながらも右も左も判らずにこの世界に入ってきたのが今から十一年前、まだ二三歳という実にういういしい青年(笑)でありました。そして初めに配属になったのが八木さんのいる動物病院でした。勤める二日前に顔合わせで動物園に?拶に行きましたが、その時の自分の第一印象はというと、誠に誠に失礼ではありますが「何かこのおばさんとこれから一緒にやっていくのか。」みたいな感じを受けたのをおぼろげながら覚えています。(大変失礼) 当時の動物病院は今の建物になる前のやつでして、そこを八木さんと自分の二人で担当していました。
病院は特に春先になりますとツバメやスズメのヒナ、キジバト、ムササビ、ハク ビシン等保護動物で満室状態なり、てんてこまいになってしまいますが、私が休み明けで仕事に出てくると、八木さんはその間本業の獣医業務もこなしているにもかかわらず、私がやらなければならない手間のかかるミルワームのサナギの選別作業をピッシリとやってくれてあるのにはいつも驚きでした。 こんな調子で私の飼育係人生が動物病院にてスタートしたのですが、飼育の基本というものを教わったのも八木さんからでした。
ある日、私がタヌキが入ったペットケージの底のスノコをタワシで洗っている時、「ちょっと重箱の隅をつっつくようで悪いけれどまだここが汚れている。」と注意され、私としてはちゃんと洗ったつもりだったのに意地の悪い姑みたい、もしくはどこかの引っ越しのコマーシャルのようでもあり、「何だうるせえなあ。」と思ったものでした。 (失礼)
でもそのおかげで手抜きなく徹底的に掃除するというのが身に付きました。
また、デッキブラシの使い方を教わったのも思い起こせば八木さんからでした。ブラシの柄の根本の部分を片手のひらで包み持つのですが、こうした方が力が入りやすいと教わり、自分は未だにその握り方で毎日ブラシをかけております。そして動物の捕獲・保定や各動物の特窒ネども八木さんの補助をしながら覚えていったものでした。このように私の飼育の基本は、今振り返ったらほとんど八木さんから教わったんだなとつくづく思いました。
半年後、担当替えで動物病院から中型サル・アシカの担当になりました。アシカの子供の離乳がうまくいかず子供を病院に入院させるとなった際、当時の上司とちょっとトラブルになってしまいましたが、それを八木さんにもとばっちりで当たってしまったように思います。あの時はどうもすみませんでした。 当時は私も若かったと言うことでお許し下さい。また、ある日私が人工保育で育てたシシオザルのゴクウが遊んでいる際、不注意で親指の腹の箇所をパックリと切ってしまったことがありました。私もあわててしまい何とかしてと八木さんに助けを求めると、縫わなきゃならない事になり、自分がゴクウを抱え指を出させ、片手はいつもの指シャブリで半べそをかきながらもおとなしくしているゴクウを、麻酔をすることなく優しくスムーズに縫い上げてくれました。また私の人生を変えてしまった?ともいえる自分が親代わりになって育てたペンギンのヒナ・ドナルドが、ある時ピーと鳴く事もできずにぐったりと弱りきってしまい、八木さんに注射をうたれるという状態になってしまいました。あの時は、もう完全にドナルドは助からないと思いました。その後、何度かの危険な状態を乗り越えて立派に大きく成長したドナルド、いやー奇跡でしたね。キリンのシロウが立てなくなってしまい、自分が2日間泊まり込んで看病したときには、次の日の朝早くから八木さんは心配して見に来てくれましたが、その時、自分の為にわざわざおにぎりを作ってきてくれましたね。とってもおいしかったです。ありがとうございました。
このように、ちょっと思い出しただけでも振り返ってみれば、自分の飼育係人生のスタートから今まで育ててきた動物たちとの思い出の中に、いつも八木さんが縁の下の力持ちのように支えてきてくれたんだなあと、今更ながらつくづく思われます。獣医という立場なので、動物たちからはいつも嫌われてしまっていて「今度生まれてきたら絶対飼育係になる!」と、ちょっと可愛そうだった八木さん。でも、象のシャンティだけは仲良しの友達でしたね。 あの日あの時を振り返ってみると、とってもたくさんの思い出があり、きりがなくなってしまいますが、八木さん本当に本当に今までいろいろとありがとうございました。お疲れさまでした。お体に気をつけて、新天地でのご活躍を心よりお祈りしております。そしてまたいつの日か、とびきりの笑顔で会えることを楽しみにしています。
See you again.
Good Luck!
(松永 亨)