60号(1987年11月)11ページ
実習を終えて
小泉美砂子
去年の10月、唐突に「実習をやりたい」と思い、その勢いで学校に実習届けを提出して、今回の実習となりました。私は、東京の渋谷にある日本動物植物専門学院の1年で、獣医看護科にいます。獣医看護科はコンパニオンアニマルを相手とする学科ですが、私の場合、コンパニオン以外の動物の飼育、看護をやってみたいと思っていました。
でも、そうは思いながらも実際に実習ができる、と決定したときは何とも言えない不思議な気分でした。今までは客として見る専門だった動物園で、自分が仕事をする(実際は迷惑ばかりかけていましたが・・・)というのですから。
実習が始まるまでは不安でした。どのような仕事をやるのか、私にどんなことができるのか。私にとって動物園という場所は、全く知らない別世界という感じで、実習をやるという実感もあまり湧いて来なかったのです。
そんなふうに始まった実習ですから、戸惑いばかりでした。何をしていいのかわからずボーッとしていたり、ウロウロしていたりということもありました。でも、この実習では学校ではできないようなことを勉強させていただきました。
獣医看護というものは、病気、ケガなどで治療を受けた動物が回復するまでの世話をするということだそうです。今のところ学校では講義を受けているだけで、飼育などにはほとんど関与していません。飼育管理は就職してから経験を身に付けていくというやり方のようですが、私の場合は仕事に就いてから覚えていくというのはなかなかできないと思ったのです。それならば、休みの期間も長いことだし、思い切って飼育の勉強の為に実習をやろうとなったのです。
実習が始まってから、あれもやりたい、これもやりたいと意気込んだのは良かったのですが、慣れない環境や緊張による疲れなどで貧血を起こして倒れたりもしました。あの時は本当にすみませんでした。忙しい時に余計な心配をかけてしまって・・・。自分では何も覚えていなくて申し訳ありません。私を宿直室まで運んで下さった方、宿直室に様子を見に来て下さった方々、ありがとうございました。
このことがあった以前から思っていたのですが、飼育などに関する仕事では、体力がなければつとまらないということを、このことで改めて実感しました。もっと飼育の方をやる予定でいたのですが、それもできなくなって予定をくるわせたりして、小型サル舎と熱帯鳥類館の担当の方、すみませんでした。
動物病院での実習では、学校で2年になってからやるようなこともやらせていただきました。ラクダに投与する抗生剤を注射器に吸うことや、ガス滅菌をしたり、虫卵を見たり、細菌検査のやり方を聞き細菌を見せてもらったり、他にもいろいろなことがありました。
初めて触った機械や薬が多くあって、こういう物も使うんだと感心しました。でも治療のやり方には驚きました。学校で手術や治療をした時は、消毒など徹底していたのに、動物園の治療では消毒があまり徹底されていないように思えたのです。ウォータードラゴンの断尾の時も驚きました。部屋の中を消毒してからやるわけでもなく、見ていた私も多少の手術の手伝いをしたのですが、手を消毒してもいなかったし、(本当はしなければならないと言われましたが)最後は尾を焼いて終わり。でも考えてみれば、動物の体にはケガなどを自分で治す力があるのだから、そんなに徹底的に何から何まで消毒しなければならないということはないのではないか、と思いました。
その次の日には、ウォータードラゴンの尾の消毒に行った時、私は大の苦手のはずのトカゲを手で持っていました。その時は夢中で何も考えていませんでしたが、今思うとよく触っていられたものだと思いました。最初の頃は不気味だったミルウォームも、終わり頃には平気になってきたことだし。(餌を食べている時だけは今でも不気味ですけど)
この実習で、動物園に対して持っていた考えがだいぶ変わったように思えます。実習する前までは、自分は動物園を見学するだけで、自分が仕事をするなんて信じられない場所でしたが、実習が始まってからは身近な場所に感じられるようになりました。
19日間(実際には14日間)、いろいろと勉強させていただき、ありがとうございました。御迷惑ばかりかけて申し訳なかったと思っていますが、今までになかった有意義な期間を過ごせたと思っています。動物園の方々、これからもお仕事がんばってください。