28号(1982年08月)6ページ
ブラッザグェノンの出産 〜繁殖を仕掛ける〜
(松下憲行)
モンキーアパート第4番目の部屋に飼育されているブラッザグェノン。図鑑には、中央アフリカに幅広く生息し、探検家の名前がつけられたこと、水泳の非常に上手なサルであること等が説明してあります。1度は泳ぐ姿を見たいものですが、飼育下の限られたスペースでは、それができないのが残念です。
現在の飼育数は、オス、メス各1頭ずつに仔ザルが3頭の計5頭。まあ一応賑やかな家族の内に入るでしょうか。餌の取り合いをしてケンカしたり、グルーミング(サルの社交・あいさつのひとつ)、のんびりと昼寝、子供どうしのじゃれあい等、微笑ましい様子が見られます。そんな和やかさを見るにつけ思うことは、5年前の“仕掛け”です。
当時、メスが2頭でオスがいなくて困っていたのですが、幸い日本モンキーセンターから、オスを借りることができました。しばらく見合いをさせた後に同居、表面はうまくいっているように見えても、1頭のメスの意地悪が、次第にしつこく露骨になってきました。
餌を取ろうとする時の追い回しが、ひどくなり始めたのです。オスだからその内にランキングが入れ替って、もりもり食べるようになるかと、安易に考えていると、食べ出すどころか、拒食と肝臓障害を起こしてダウン。これはいけないと、しばらくの間別居を決め、ごちそうをふんだんに与えて体力のつくのを待ちました。
体力が充分ついたところで、同居を考えましたが、このままストレートに同居させれば、ニの舞をくらうのは眼に見えています。そこで、今度は、意地悪をしないメスと見合いさせる前に、メスを分けようとしましたが、2頭並べて見ると、顔、体格は双児以上にそっくりなのです。メスの区別ができずに困り果ててしまいました。うーんと悩んでメスの顔とにらめっこ。行動も細かく観察。あった、あった、ありました。鼻の下の“ほくろ”のような黒い点です。意地悪するメスは左に、そうでないメスは右についています。
個体の区別がついたところで、メスの分断作戦の開始です。もちろん目的は繁殖。この作戦が図に当たれば、1年か2年後にはうまくいくはず。そう夢を描き、まずはおとなしいメスを再度見合いさせ、しばらくしてから同居させました。次に、この仲を壊されないようにと、意地悪メスをケージに隔離して、顔を合わせても直接手出しできないようにしました。
この作戦は、こちらの思惑以上にうまく進行し、数ヶ月の隔離に意地悪メスは、いじけたか、くじけたか、すっかりおとなしくなってしまいました。その間に2頭はすっかり蜜月状態。妊娠を予想したところで、意地悪メスをケージから開放しました。もうオスもたくましく成長していて、2頭の間には何やら冷たい関係だけが残ったのか、互いに距離をおいているようでした。
再度、見合いをさせてからほぼ1年後の6月16日にメスの仔を出産。ブラッザグェノン一家に夏ならぬ春が訪れました。その後もおとなしいメスは順調に産み続け、現在まで、4年連続の出産。これからもまだまだ期待でき、モンキーアパート1番の仔だくさん一家になりそうです。