28号(1982年08月)9ページ
動物病院だより
動物園で見る最もなごやかな情景は、動物の親子がいっしょにいる姿ではないだろうか。子供が母親の乳首を探しあて、いっしょうけんめい吸ったり、母親にじゃれついたり・・・。生まれてくる子供達のすべてが、このような暖かい環境の中で生活できたら、どんなに良いことであろう。
しかし、なかには子供を産んでも水につけたり、ほったらかしにしたり、母親としてのつとめを果たしてくれない親もいるのです。その場合、私達飼育課員が育ての親となって、子供の面倒をみなければならない。人工哺育・育雛をする時、各々自然に少しでも近い状態で、育てるよう努力している。哺乳類では、まずどのようなミルクを、どのようにして与えたら良いものか問題となる。各々の動物の乳成分を調べ、私達の手に入るもので似たミルクを選び出す。サル類では人間用ミルク、ライオン・ヒョウ・タヌキなどは犬猫用、キリンは牛の乳を与えている。また哺乳ビンも口にあわせ、使いわけている。
鳥では、キジ類は養鶏用配合飼料を使い、ペンギンなどは魚を細かくし、注射器に入れ口に流し込み、成長してくれば切身か丸のままを与える方法で行なっている。
このようにして大きくなり、餌を自分で食べるようになり一人前なったといって“良かった”と簡単には喜べない。次に思うことは、うまく仲間に入ってゆけるだろうか?仲間といっしょにさせると、人間の手で育てられた個体は、同種の動物に対しおびえ、担当者が近づくと甘えてくる。命があっても、人工哺育をした場合、動物としてのつきあい方を知らない個体ができあがってしまうケースが多いのである。
しかし、人工哺育をしたことにより、欠点ばかりがあるわけではない。たとえば、オグロワラビーは神経質な動物であるが、ビビというメスは人工哺育で大きくなった為、人間を恐れないので、簡単に袋の中をのぞくことができた。そのおかげで、今回親指ぐらいの大きさの子供が、成長していく様子を観察し、記録にとることができた。(しかし残念ながら、7月19日袋から出てしまい、仔は7月23日に死亡してしまった。)
これからも、人工哺育・育雛する場合が出てくると思うが、できるだけ“○○もどき”ができないように工夫し、命があるとともに、仲間に溶け込み、繁殖することができるよう努めてゆきたいと思う。
(八木智子)