でっきぶらし(News Paper)

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保護動物ベスト10 〜鳥類の部〜

動物の保護状況(哺乳類の部)ベスト10を組み、先月号(8号)で紹介しました。驚く程の数であったか、なかったかはともかく、動物園のあまり知られていない活動を、紹介できたのではないかと思っています。
次に鳥類のほうはどうなっているのか、やはり13年前にさかのぼって調べて見ました。昭和56年度だけで、48種140点もあったぐらいです。ちょっとページをめくれば、次から次と舌を咬みそうな種名、全く想像すらつかない種名、昆虫と間違えそうな種名が出てきて、実に17目・40科・124種・1100点近くに及びました。
静岡県は他県に比べて、野鳥の生息種類は豊富と言われています。伊豆半島から駿河湾、遠州灘と続く海岸線。また、日本一の標高を持つ富士山。3千メートル以上の高峰が、幾つもそびえる南アルプスの山々。それらの山相の複雑さや、植物相の豊かさが他県より多いと言われるゆえんなのでしょう。
生息の確認された種類、鳥学書等に記載されている過去の記録を加えて、300種類を超えるのではないかと言われています。保護点数はともかく、わずか13年の間に、124種と半数近くまでに及んだのは、その証明と言えるかもしれません。
ふだん、動物の飼育をしているだけで、野鳥との関わりに乏しく、時折、愛鳥家と行動を共にして、少しばかり教わったり、何かの時に登山やハイキングをして、わずかばかりの野鳥に出合う程度でした。が、そんな中で、次々に持ち込まれ保護される野鳥は、格好の勉強の材料でした。知らぬ間にずいぶん多くの野鳥と出合い、区別の方法を覚えました。哺乳類と違い、別の不可思議な魅力を持っているものです。それでは、ベスト10を組んでみますと・・・。

1位 ツバメ (125羽) スズメ目 / ツバメ科
2位 ゴイサギ ( 95) コウノトリ目 / サ ギ科
3位 コサギ ( 58) コウノトリ目 / サ ギ科
4位 トビ ( 52) ワシタカ目 / ワシタカ科
5位 アオバズク ( 46) フクロウ目 / フクロウ科
6位 オオコノハズク ( 43) フクロウ目 / フクロウ科
7位 キジバト ( 36) ハ ト目 / ハ ト科
8位 コジュケイ ( 30) キ ジ目 / キ ジ科
9位 ミゾゴイ ( 25) コウノトリ目 / サ ギ科
10位 フクロウ ( 43) フクロウ目 / フクロウ科
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次点 ヨシゴイ ( 22) コウノトリ目 / サ ギ科
次点 コシアカツバメ ( 22) スズメ目 / ツバメ科
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13位 ヒシボソミズナギドリ( 21) ミズナギドリ目 / ミズナギドリ科
14位 ニホンキジ ( 19) キ ジ目 / キ ジ科
15位 ムクドリ ( 18) スズメ目 / ムクドリ科
16位 スズメ ( 18) スズメ目 / スズメ科
17位 ヤマシギ ( 17) チドリ目 / シ ギ科
18位 ヒメアマツバメ ( 17) アマツバメ目 / アマツバメ科
19位 バン ( 15) ツ ル目 / ク イ ナ科
20位 カルガモ ( 14) ガンカモ目 / ガンカモ科
21位 ウミネコ ( 12) チ ドリ目 / カ モ メ科
22位 マガモ ( 11) ガンカモ目 / ガンカモ科

ツバメ・ゴイサギから10位のフクロウに至るまで、ベスト10入りする保護鳥は、あまりにも大衆的な野鳥ばかりでした。もう少し、20位ぐらいまで引き下げても、やはり出てきません。
せいぜい目をひくものは、13位のハシボソミズナギドリで、大半が昭和50年の6月に集中しています。確か、衰弱して海岸に大量に打ち上げられ、死んだのを解剖すると、胃内は空っぽだったと、当時のマスコミを賑わせて話題になりました。その一部が動物園に持ち込まれ、13位に入っているものです。
保護数として気になるのが、ツバメです。ダントツのようですが、私達の記憶と比べても、あまりにも少なく感じます。春になると巣から落ちた、あるいは巣ごと落ちたヒナが、次々と持ち込まれ、その数の多さから記載漏れが続出し、125羽にとどまっているようです。実際の数は、その2倍以上になっているのではないかと思います。

「目別ベスト10」
次に、保護状況を目別の種類の多い順に組んでみますと、やはり一番多いのはスズメ目で、16科33種。この中には、県の鳥に指定されているサンコウチョウ、春の渡りの途中に、動物園でも時々姿を見せてくれる、ヒレンジャク等も含まれています。そして、もしやと思って調べてみてあったのが、違法飼育が原因の保護です。アオジやメジロ・ウグイス・キビタキ等9種に及び、無許可捕獲が原因で保護されたのに、オオルリがありました。
こんな風に、スズメ目の保護状況を少し見ただけでも、人の身勝手さが伺えるのは、残念と言うよりありません。
次に多いのは、チドリ目の4科19種。一番多い種でヤマシギの17羽(17位)で、次いでウミネコの12羽(21位)、全般に数羽程で、1〜2羽ぽっきりと言うのもずいぶんありました。この中のユリカモメ・ウミネコがフライングケージで、ムナグロが子供動物園で飼育されています。
3番目に多いのが、ガンカモ目の1科12種。たいてい1〜2羽で、数が多いのは、動物園の池でもよく見られるカルガモ(14羽)、マガモ(11羽)、コガモ(7羽)で、変わりダネは、昭和54年11月15日に保護された、オオハクチョウの幼鳥です。東北・北海道では何も珍しくはないのでしょうが、この暖かい静岡で保護されるとは・・・。
冬場になると、何所そこの川に来たとか、池に来たとかで時々話題になります。このオオハクチョウの幼鳥は、その後、新潟のひょう湖まで送られました。
4番目は、ワシタカ目の2科11種。うんざりする程保護されているのが、トビの52羽(4位)で、他のワシタカ類全部(25羽)を合わせた数の倍以上もあります。次に多いハイタカで5羽ですから、その多さがわかろうと言うものです。
ハヤブサやチョウゲンボウのように、いわゆるカッコイイ猛禽類を見て来た中で、さすがと王者の風格を味わせてくれたのが、昭和55年8月2日に保護されたクマタカでした。翼を拡げれば、2メートルぐらいはあるでしょう。あの鋭い眼、くちばしは精悍そのものでした。昨今、猛禽類の密猟の話しをよく耳にします。自然保護、動物愛護どこ吹く風の傾向には、悲しい気が致します。
コウノトリ目も、ワシタカ目と並び1科11種でした。ベスト10入りしている種類が多く、次点のヨシゴイを含めると、4種も上位に顔を出しています。しかし、ここで強く関心を奪われるのは、たった1羽の保護ながらアオサギです。
動物園でも数羽生息しているだけではなく、昨年からは繁殖も確認されています。他県ではいざ知らず、静岡県内で初めてであろうとは、うれしいような気分にもなってきます。
6番目は、ミズナギドリ目の3科7種。冒頭に、ハシボソミズナギドリのことを少しばかり紹介しましたが、このミズナギドリの仲間以外に、保護されているのがコアホウドリです。何せ、もう8年も前の話しになります。5月8日保護、10日放鳥と記載してあるのみで、どこでどのように保護収容されたか、知る間もなく残念と言うしかありません。
7番目が、フクロウ目の1科6種。この仲間も、ベスト10入りしている種が多い目です。まず、5位のアオバズクから6位のオオコノハズク、10位のフクロウと3種。声のブッポウソウ(仏・法・僧)、コノハズクも6羽保護されています。
夜行性の猛禽類と言えるでしょう。と言う訳で、この種が保護されて、もてあまし気味になると、夜行性動物館に“お声”がかかります。現在飼育されているのは、アオバズクとオオコノハズクだけですが、かつて、フクロウ・コミズクも飼育されていました。
8番目は、ブッポウソウ目の2科5種。ブッポウソウ、この鳥がブッポウソウと鳴く。長い間そう信じられて来たと言います。全身が青緑色に光輝く美しさが、同じ環境に生息するコノハズクの声と聞き間違えられていたようです。そのブッポウソウが、過去3回保護されています。
餌付けに困るのがカワセミの仲間です。生きた魚しか食べないのですから、その苦労たるや大変なものです。金魚を与えたり、遠くまで出かけて、ハヤやモロコを捕まえに行ったり・・・。挙句にコロッと死んでしまうのですから、野鳥の飼育のむつかしさを、改めて教えられます。
9番目が、キジ目の1科4種。チョットコイチョットコイと鳴き、静かになると、園内をかっ歩しているあのコジュケイが30羽(8位)も保護されているとは、おかしいような気もします。フライングケージにも何羽かいるのですが、保護されたのかどうかは疑わしく、どうも外部から侵入して住みついているようです。
他、ニホンキジも19羽(14位)保護されています。これも、園内で時々見かけますが、野生のものと言うより、たいてい放鳥されたものではないかと思われます。
ツル目が、同じく1科4種で並んでいます。この中で一番多いのは、やはりバンで、開園当初より毎年1〜2羽ずつ保護が続き、15羽(19位)に至っています。フライングケージにおいても飼育されていて、比較的飼育し易いのか、今年も何羽か繁殖しています。が、天敵も多く、ネズミにヒナを食べられてしまったと言う話しもよく耳にします。
他に、容姿のあでやかさから、俳句・和歌によく出てくるヒクイナ(緋水鶏)、その仲間のクイナ・ツルクイナが保護されています。

以上が、目別に見たベスト10です。以降、ペリカン目が2科3種で次点、キツツキ・ホトトギス・ハト目が1科2種、アマツバメ・ヨタカ・アビ目が1科1種で続きました。
野鳥に詳しければ、もっと面白い話しも書けたのですが、ふだんほとんど野鳥に接しない私たちにとって、これぐらいが限界ではないかと思います・
1100点近くに及んだこれらの保護鳥も、園内で飼育できれば良いほうで、その大半は死亡しています。本来、人を全く拒絶して生活しているのが、いとも簡単に捕らえられ保護されるのは、病気か、怪我か、衰弱等のためです。見ようによっては、自然淘汰される個体だったかもしれません。
生きている、生きようとしているのなら、どんな形でも生かしてあげたい。が、人の手によって元気が回復しても、その期間が長ければ長い程、野生に帰しにくくなります。それ程、自然界で生きてゆくのはきびしいのです。
私たちの努力は、徒労に終わっているかもしれません。それでも保護が続く限り、わずかな生きる可能性に、夢と希望を託したいものです。その願いがない限り、徒労と思える努力はとても続けられないでしょう。
(松下憲行)

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