30号(1982年12月)8ページ
動物病院だより
このところ毎朝出勤してくると、まずホッキョクグマの寝室(兼産室)の様子を見に行く。御存知の方もいらっしゃるかと思いますが、ホッキョクグマは、親の体重が300kgぐらいあるのに対して500g前後の赤子を出産する。だから外見から妊娠しているかどうかを判断することは、とてもむずかしいのです。ホッキョクグマの出産時期は、だいたい個体によって決まっている。その為、今回妊娠していると仮定して、11月下旬から準備を始めたのです。
昨年は11月21日、一昨年は11月27日に出産して、いずれも親が咬み殺してしまっている。今年は過去2年の失敗をくりかえすまいと1部屋にスノコを敷き、ベニヤを張って産室を用意した。最初のうちは警戒して入らなかったが、少しずつ利用するようになった。ビデオをセットして録音を始め、生まれたらなんとかして取りあげ、人工哺育にきりかえる準備もできた。しかし、今のところ一向に変化が見られません。
動物園では、毎年何例かの出産がありますが、実際に出産シーンを見る機会は、めったにありません。今回のホッキョクグマの場合、出産後ただちに人工哺育に切り換える計画なので、その一瞬はとても大切になってくるわけです。こんな状態で待機し続けることは、精神的にもかなり疲れます。担当者は、1日1日と日が過ぎていくにつれ、「交尾は見ているけど、カラ振りかな。」ふとそんなことが脳裏をかすめます。獣医日誌には、「ホッキョクグマ、本日も採食良好、落ち着いており動作異常認めず。」と記載しています。果たしてどうなるだろう?
(八木智子)