34号(1983年07月)3ページ
キリンの出産 〜再び人工哺育〜
(佐野一成)
6月上旬より、マサイキリンの徳子の食欲が落ちて来た。前回の子、一樹の場合、食欲がなくなった日に出産したので緊張したが、今回は餌を残す日が長く続いていた。あまり食べないと心配になってくる。腹の中の子供が大きくなって、食べられないのではないだろうか・・・。
出産予定日の6月25日より1週間前から交代で、夜間観察(0時)を開始した。獣舎に入ると尾をあげ、陰部を少し開いたり、閉めたりする状態がみられ、心配になりなかなか帰宅できなかった。
6月21日午前8時、餌を運び獣舎に入り、『おはよう。』と声をかけながら夜間の観察日誌を見ると、
“胎動あり。腹部右側が三角形になるくらいにつきでる。”
などと、記載されていた。徳子の方をじっと見ると、白目を出し、目がするどく、はげしく室内を歩き回っていた。
『あれ、いつもと違う。出産かな?』
とひとり言をいいながら掃除を始めた。そして10時30分、陰部より粘液が出て来た。徳子が舌でなめまわしている。
『間違いなく、出産だ!』
急いで近くのゾウ舎より飼育課に電話連絡をし、観察を続けた。
11時30分。少しりきむと、羊水が入ったスイカ大の膜が出て来て、その後破水し、蹄の先が見えたのは12時5分であった。続いて、りきむ動作があり、足の先より40cmぐらいが露出したのは13時30分であった。陣痛も15分間隔できていたのが、だんだん短くなり、鼻先が見え、そして15時ごろ、首が半分ぐらいまで露出してきた。
さらにりきむ回数が多くなり、子の体がずるずると出て来て、落下した。15時12分だった。羊水がバケツでこぼすように流れ出て子にかかると、体がピクッと動いた。前回の一樹の時は子が生まれ落ちる音におどろき、子を蹴ろうとしたが、今回はいまのところ落ち着いていた。さて、ここからが問題。子が立ち上がり、乳首を探して吸いつくまで、どうにか徳子が落ち着いていてほしい。そうすれば、自然で育つことができる。
祈るような気持ちで、観察を続けた。徳子が子の臭いをかぎに近づいていった。それと同時に子がビクッと動いた。すると徳子はびっくりして、前足で子を蹴ろうとした。私は、
『こらっ、だめだ。徳子、お前の子だろう。蹴るな。』
と、どなると徳子は、『フゥー』とうなるように鼻をならし、床を5〜6回唐ンつけて警戒した。白目を出し、横目でにらみつけている。子は起立しようとがんばっているが、4肢ともひろがって“のしいか”のようになってしまう。その後も起立をこころみるが、だめだった。徳子を放飼場に出し、子が立てるようになってから同居させることにした。
午後5時ごろ、どうにか子が立てるようになったので徳子を寝室に入れてみた。徳子は、あいかわらず子を横目で見ながら歩きまわっている。子が、乳首を探しに徳子に近づいていくと、足を上げ蹴ろうとしたり、逃げまわってしまう。夜間も観察したが、授乳される状態はとうとう見られなかった。今回も人工哺育にきりかえざるをえなくなった。
子の体力消耗を考え、生後20時間後の6月22日午前10時、牛のホルスタイン種の初乳を与えた。夜間は徳子といっしょにできないので、キーパー通路に仮小屋を作り、子を収容した。1リットルのしょう油のプラスチックのビンを改造し、人間用の乳首をつけて、ミルクを与えた。最初は、舌をうまくまるめられず、なかなか吸えなかったが、少しずつこつがのみこめ、今では1回2.5リットル、1日3回哺乳している。
今回も、元気に成長してもらいたい。
名前は綾子です。よろしくネ!