35号(1983年10月)2ページ
開園以来の動物 (最終章)/哺乳類・鳥類・爬虫類の長期飼育
開園以来の動物を書き始めたのは、ようやく春らしさを感じられるようになった、3月も下旬の頃でした。順路コースに沿って紹介してゆく中で、最後まで書き切れるか、不安になることがしばしば。まさか、こんなに長編になるとは、思いも寄らなかったからです。
シリーズを続けている間に、動物園の1年が入ったり、サマースクールが入ったりして、跡切れることが2回。読み辛くさせてしまったと思います。まあ、ない知恵を絞って青息吐息、最終章までなんとかこぎつけられたのです。その辺りはご容赦下さい。
“寿命”と言うものを考えながら書かなくてはならなかったものですから、飼育ハンドブックを片手にうんうんすることもありました。それは読者に確かな情報をと言う、心配りからでしたが、結果的には、自分自身も大いに勉強になりました。本当にえらそうに書いていても、知らないことがいっぱいです。
さて、最後に残っている開園以来の動物の紹介に入りましょう。これらを終えて、もしページに余裕があれば、哺乳類、鳥類等の長寿記録も載せたいと思います。
◆ アカコンゴウインコ ◆
子供動物園に、ポニーのマミーやロバのマコ以外にも、開園以来の動物がいます。アカコンゴウインコ3羽です。今は小型サル舎の工事の為、仮部屋のケージに閉じ込められていますが、以前は切羽されていて大空を自由にとはいかなくても、日中は止まり木に置くだけであったので、その周辺をけっこう自由に動き回っていました。
この種の仲間は、皆様も多分に御存知でしょうが、いわゆる物真似の非常に上手な鳥です。もっとも、地声のそれはただギャアギャア鳴きわめくだけで、美しさのひとかけらも感じさせてくれません。物真似すると、どうしてあんなに美しい声が出てくるのか、不思議になってくるぐらいです。
そのせいかどうか、好奇心の強さも人一倍です。周辺で人が何かをしていれば、目ざとくそれを見つけ、ソーッと忍び寄ってきて、不思議そうに面白そうに眺めています。それが彼らにとって、1日を過ごす中での楽しみでもあったようです。
私自身もその隣にある小型サル舎で子の行動を追い夢中になってシャッターを切っていて、ふと何気なしに後を振り向くとほんのすぐそばまで寄って来ていて、びっくりさせられたことが度々ありました。ヤジ馬ならぬヤジ鳥、全くひょうきん者です。
コンゴウインコはまた、長寿の鳥としても知られています。京都動物園で、戦前、戦後に渡って、32年間飼育したと言う記録があります。14年余りぐらいでは、まだまだ序の口。しっかり飼育したと言い切るには、後せめて10年ぐらい飼育しなければならないようです。
子供動物園を過ぎて間もなく、新熱帯鳥類館があります。夜行性動物館と合体してオープンしたのが、今年の4月27日。まだ半年しか経たず、繁殖とかの話題提供できるのは、まだまだ先のことでしょう。
そのひと回り大きくなり、まだまだ新鮮な香りのする中を飛びかう様々な鳥類。もしここを第1部において紹介したなら、開館を待つ話としながらも、開園以来として紹介できた鳥がたった1羽ながらおりました。キンバトのオスです。
前回、この新居に引っ越しできずに他界した旨、お伝えしたのを思い出して頂けたでしょうか。開館を目前に控えながら、とうとう寿命尽きて・・・。
結局、新居へは彼の子だけが引越ししました。開放展示室の中を今も元気に、彼の面影を偲ばせながら飛んでいます。いつしか3代目のヒナがかえりましたと、そんな素晴らし話題を提供できる日が来るでしょうか。
ところで、キンバトの寿命とは、いったいどれぐらいなのでしょう。何年ぐらい生きられるのでしょう。飼育ハンドブックを開いた限りでは、キンバト自体の長寿記録は見当たりません。同じハトの仲間で、最長がシラコバトの16年以上(上野動物園)、最短の長寿記録でソデグロバトの9年11ヶ月(上野動物園)があります。
14年近い飼育記録や日本で最初の繁殖を考えると、立派に務めを果たしたと言えなくもないようです。
◆ ニホンツキノワグマ ◆
新熱帯鳥類館を過ぎると、次はクマ舎です。現在、ナマケグマ、ニホンツキノワグマ、ホッキョクグマが飼育されていて、この中のニホンツキノワグマ3頭全て、ツキタ(オス)、チュウタ(メス)、アキコ(メス)が開園以来の動物です。大過なく今日まで至っていますから、かなり丈夫な動物だと言えるでしょうか。
ただ繁殖はとなると、昭和51年、52年と2回(2頭)ぽっきりで、ちょっと寂しい気がしないでもありません。最近では歳なのかどうか、まだ衰えるのは早過ぎると思うのですが、全くそんな話が聞けなくなっています。
今年も秋が深まり、紅葉の季節が近づいてきました。野生のクマにとっては、冬ごもりの準備で忙しく、一番慌しくなる時でしょう。面白いのは、チュウタもアキコも野生の習性に従い冬ごもりをします。寝部屋にワラを入れてやれば、自分で上手に巣を作ってグゥグゥ、“野生の性は忘れないよ”とでも言っているようです。ところがツキタはどう言う訳か、その気配を全く示しません。冬場でも餌をムシャムシャ、冬ごもりをすっかり忘れてしまっています。
この3頭の中で、ツキタだけは人の手によって大きくなっているのです。開園当初は、ほんの小さなかわいい子グマで、当時の担当者もよくかわいがって散歩に出していました。動く縫いぐるみのような愛らしさでしたから、ついついツキタだけをひいきしたのも、無理からぬ話でした。
そんな風にかわいいかわいいで大きくしたのが災いしたのか、すっかり野生の性を忘れさせてしまったようです。結局、毎年冬場はひとりでしょんぼり。いつ見てもうらめしそうに空を生気なく眺めています。
紅葉の季節が去り、木の葉が舞い出せば、冬将軍がツキタに孤独を宣言しにやって来ます。ツキタはそれをどんな思いで迎えるのでしょう。じっと耐える心の用意をしているのでしょうか。どうであれ、彼にとって一番迎えたくない季節が、もうそこにやって来ています。
◆ カルフォルニアアシカ ◆
「アン、アン、アン」となきすいすい泳ぐ姿を見て、たいていの人はアシカと言わずにオットセイ。説明板を見てやっとアシカと言い直します。どうしてか不思議な気もしますが、おそらくサーカス等でアシカと言わずに、オットセイの曲芸として紹介された為でしょう。
現在いるオスのボス、メスのチビ、ジュン共に開園以来の動物です。そしてその合間をちょこまか動き回っているのが、今年6月11日に生まれたチビの子です。
14年余り、さして長くないかもしれませんが、それでもこれだけの年月が経つといろんな変化があります。私が担当していたのは、もう10年以上の前のこと。ボスは憶病で、チビは人なつっこく、ジュンはちょっぴり図々しい。当時まだ子供だったそれぞれの個体のイメージです。睨みを効かせれば恐がって逃げ、威厳も充分に保つことができていました。
それがどでしょう。二世が誕生するのは微笑んで眺めていられますが、先日担当者に餌のバケツを見せられてゾッとしました。2ヶ所に小さいながら、鋭い穴があいていたのです。餌をあげたのはいいが、どうも少な過ぎたのか、何か気に入らなかったようで、いつもなら立ち去るところが、向って来たと言うのです。バケツで幸いでした。魚を丸飲みするので、さほど鋭い犬歯は生えていませんが、それでも200kgを越える体重の圧力で向って来られたらたまったものではありません。
時の移り変わり、ボスは文字通りボスとして君臨しているのです。最早恐いものなし、2頭のメスを従えて(野生では5〜20頭ぐらい)ゆうゆう自適の毎日です。
ただ、餌はバリバリよく食べるのはいいけれど、どうもたんの量が多く、特に池の掃除をした後がひどく、それが2年前に死んだトドの前兆に似ていて気に入らないと、担当者は語ります。それと繁殖成功率の悪さ。もう8年も前から出産し始めていると言うのに、無事に離乳させられたのはわずかに2頭で、現在の子がうまくいったとして3頭です。全く嘆いても嘆ききれない程離乳作業には試行錯誤を繰り返しました。
カルフォルニアアシカも今は希少動物となり、簡単に手に入らなくなりました。私たちに課せられる問題も、ひとつひとつ重くなって来ています。
◆ フンボルトペンギン ◆
開園以来の動物、最後の紹介はやや疑問符がつくフンボルトペンギンです。現在でこそ個体識別がつくように翼のつけ根にマーキングしてありますが、開園当初はそんなことを全くしていませんでした。
今になって困りました。ひとつひとつ消去法で、例えばロッキーのように人工育雛したから開園以来ではない。あるいは昭和○○年に自然フ化が1羽あった、購入したと、何とか理由のつけられるものを消していって、最後に1羽が残ります。それがどうも開園以来ではないかと言うことです。そうでないかもしれません。
もっとも、フンボルトペンギンの寿命を考えると、開園当初は10羽いたのですから、4〜5羽ぐらいいてもおかしくありません。それが繁殖率も悪くわずかに1羽しか残らず、しかも疑問符がつくとなれば、余程の年寄りばかりが来たのか、あるいは飼育する上で何らかの問題を克服しきれなかったかです。
えんび腹を着てヨチヨチ歩くペンギンの姿は、なかなか愛らしいものです。それが足の裏が腫れびっこをひき始めたら、痛々しくてそんなことは言っていられなくなります。
ペンギンには、アスペルギス症(カビの1種)と言って肺を主体に内臓が冒される恐い病気があります。次に恐く悩まされるのが腫留症です。永い年月真水で、そして陸の部分をコンクリートにして飼育していると、どうしても足の裏、特にかかとの辺りに腫瘍ができ易くなってしまいます。
現在も大半のペンギンが、大なり小なりこの病気にかかっています。オウサマペンギンに至っては、足が2〜3倍にふくれあがり、惨めで見ていられないぐらいです。
老朽化し新たに造り直す構想も生れている今日、真水で飼育するのはやむを得ないとしても、陸の部分をコンクリートにしないで、せめて腫留症ぐらいからは開放してあげたいものです。同じ愚を繰り返しては、彼等に申し訳ありません。
以上で、フラミンゴから始まった開園以来の動物は終わりです。5年後、10年後でも、これ等の動物が1頭、1羽でも多く元気でいますと紹介できるように、これからも地道にしっかりと歩んでゆきたいと思います。
《哺乳類・鳥類・爬虫類の長期飼育 》
飼育ハンドブックに哺乳類や鳥類、更に爬虫類から両生類、魚類に至るまで、長期飼育した一覧表が出ています。その一覧表を出す為に調べた文献は実に様々に及び、その数はここに単に羅列しただけでも1ページや2ページは潰れてしまう程です。
紹介できるのはその中のほんの一部分ですが、そこから動物の“寿命”の手掛かりのようなものをつかんで頂ければ幸いです。
同じ種類の動物でも、生きていた年数にはかなりの開きがあります。幼い頃に病気や怪我で死なせてしまったものはともかく、しっかり飼育すれば何処まで生かせられるのか、その目安となるのが長寿記録でしょう。一応ベスト10形式で哺乳類、鳥類、爬虫類の11種類の表を作成してみました。
◆ 哺乳類長寿記録ベスト10 ◆
1位 ウマ
飼育期間…52年 園館名…オーストラリア(個人)
2位 カバ(♂)
飼育期間…49年6ヶ月11日 園館名…ニューヨーク
3位 ハリモグラ(♀)
飼育期間…49年4ヶ月18日 園館名…フィラデルフィア
4位 インドゾウ
飼育期間…47年11ヶ月1日 園館名…ドレスデン
5位 オランウータン(♂)
飼育期間…45年9ヶ月8日 園館名…フィラデルフィア
6位 カクマヒヒ
飼育期間…45年 園館名…サンディエゴ
7位 ハイイロアザラシ
飼育期間…41年3ヶ月2日 園館名…スカンセン
8位 ホッキョクグマ
飼育期間…41年 園館名…チェスター
9位 インドサイ
飼育期間…40年4ヶ月11日 園館名…ロンドン
10位 ウシ(雑種)
飼育期間…40年 園館名…個人所有
次点 コビトカバ(♂)
飼育期間…39年7ヶ月8日 園館名…ワシントン
◆ 鳥類長寿記録ベスト10 ◆
1位 ソデグロヅル
飼育期間…61年8ヶ月25日 園館名…ワシントン
2位 コシグロペリカン
飼育期間…61年 園館名…ウェリントン
3位 ダルマワシ
飼育期間…44年4ヶ月 園館名…ロンドン
4位 エミュウ(♂)
飼育期間…42年0ヶ月3日 園館名…天王寺(大阪)
5位 オオバタン
飼育期間…41年8ヶ月22日 園館名…王子(神戸)
6位 シロエリハゲワシ
飼育期間…41年5ヶ月15日 園館名…ニューヨーク
7位 モモイロペリカン
飼育期間…41年 園館名…天王寺
8位 コンドル
飼育期間…40年 園館名…サンディエゴ
9位 ハクトウワシ
飼育期間…36年 園館名…サンディエゴ
10位 タンチョウ
飼育期間…36年 園館名…上野・多摩
次点 カラカラ
飼育期間…35年11ヶ月9日 園館名…王子
◆ 爬虫類長寿記録ベスト10 ◆
1位 アルダブラゾウガメ
飼育期間…152年 園館名…不明
2位 カロライナハコガメ
飼育期間…138年 園館名…不明
3位 ムカシトカゲ
飼育期間…77年 園館名…不明
4位 ヨーロッパヌマガメ
飼育期間…70年+α 園館名…個人
5位 ワニガメ
飼育期間…59年 園館名…不明
6位 ミシシッピーワニ
飼育期間…56年 園館名…不明
7位 アメリカニオイガメ
飼育期間…54年9ヶ月 園館名…フィラデルフィア
8位 ガラパゴスゾウガメ
飼育期間…47年7ヶ月 園館名…フィラデルフィア
9位 ヨウスコウワニ
飼育期間…47年4ヶ月 園館名…栗林
10位 ナイルワニ
飼育期間…43年9ヶ月 園館名…カイロ
次点 アフリカクビナガワニ
飼育期間…42年5ヶ月 園館名…セントルイス
※注・哺乳類は家畜も対象としました。
1種1例としその中の最高例を選びました。
以上、各類のベスト10でした。紹介できなかったほうが、圧倒的大部分です。この後、機会があれば、それらも紹介したいと思います。それでは来月号もお楽しみに・・・。
(松下憲行)