40号(1984年08月)4ページ
爬虫類館10年 ◎過去に飼育された主な爬虫類
何でもかんでも簡単に餌付いてくれればこんな楽なことはないでしょう。でも、そうは問屋が卸してくれません。環境が変われば餌を食べなくなるのは常識です。新たに彼らがやってくる度に、あの手この手で心を解きほぐし安心させ、好んで食べてくれそうなものを探し求めて担当者の苦労は始まります。
そう言いながらも、新しい環境に慣れ餌付いてくれれば、やりがいがあると言うものです。結果は様々、担当者の手をそう煩わせないで餌付くかと思えば、最後の最後まで手を焼かせ悩ませ、結局餌付ききらないものもいます。
まず前半では、開館以来を紹介しました。後半のこのコーナーでは、餌付かなかったり、さほど長くない飼育期間に終わったり、想像以上に寿命が短かったりしながらも、その中で印象深く残っているものを紹介したいと思います。
が、実際に担当者から聞き出すのは、気が重く辛いことでした。思い出したくないことをずいぶん思い出させたのでは、と思います。
○つい最近のリュウキュウアオヘビから遠い昔のミルクスネークまで
リュウキュウアオヘビは、生息地の沖縄ではごく普通に見られるヘビだそうです。餌はミミズで、来園当初よくミミズを探している担当者の姿を見かけました。大変だったのは、そのミミズを探すことより環境への適応だったそうです。「喰っても喰ってもやせてっちゃう。あれはヤマカガシと同じだったなあ。」これは担当者の述懐でした。
目の前で緑色から褐色に体色がみるみるうちに変わっていってしまう(逆の場合も)不思議なトカゲ、アノールトカゲ。大きさは、そのへんにいるカナヘビとちっとも変わりませんでした。聞けば寿命は意外に短く、一時期大量に購入されたものの、そう長くない飼育期間に終わりました。
昆虫が主食であり、小型のトカゲといえば、他にキノボリトカゲ、ヨウガントカゲも飼育されたこともありました。
アップで撮れば怪獣に見えた、そう請合えたのはジャクソンカメレオンです。顔面より突き出ている3本の角は、かつての恐竜をほうふつさせました。何せ口がうるさく、その辺が担当者の最も頭の痛いところだったそうです。餌付いていいなあと思っても、暫くするとその虫を全く食べなくなってしまい、更に別の虫を与えてもいつしか食べなくなってしまう、それほど程やっかいだったのです。結局、この口のうるささが災いして、3ヶ月余りの飼育で姿を消してしまいました。
世の中には常識を突き破るような動物がけっこういます。爬虫類では、アシナシトカゲがその部類に入るのではないでしょうか。確かに顔付き体のつやはトカゲそのものなのですが、足がありません。ヘビのように這うのです。話には聞いていても、いざそばで見せられるといささか驚きました。昆虫が主食だったこのトカゲも、展示期間はそう長くはなかったように思います。
パンケーキリクガメは、静岡で爬虫類展があった折に、日本平動物園に寄贈されました。名前が示すように、手足を引っ込めてじっとしていれば、パンが落っこちているような感じを受けました。菜食のおとなしいカメでしたが、当初にわずかに餌を食べただけで、結局餌付かず展示されることもなく、姿を消してしまいました。
他にカメの仲間で、飼育された主なものといえば、オオクビガメがいます。が、意外に印象が薄かったようで、これといった話は聞かせて貰えませんでした。
ワニの仲間では、かつてパナマカイマンが飼育されたことがあります。「あれは、ペットだったな。」とは、担当者の弁でした。それ程人馴れしていたのが災いしたのか、他のワニの仲間とはうまく折り合わず、喧嘩を売られて負傷。その傷が元で他界しました。
話は前後しますが、中型のトカゲ類でもけっこう印象深かったのがいます。ウォータードラゴンなんて名前を聞けば、さもたくましそうですが、実際は菜食。が、これはアンボイナホカケトカゲもそうだったのですが、昆虫を与えるのを忘れてはいけなかったそうです。それで、一時命を取り止めたトカゲもいた、ということです。
他に、オオヨロイトカゲ、このトカゲは昆虫と果物が主食だったということでしたが、よく体が化膿し、担当者、獣医師共々よく悩ませたそうです。もっともそれはオオヨロイトカゲに限らず、トカゲ類全般に体質が化膿しやすいということでした。
他、更に過去の歴史をひも解けば、グリーンボア、サンディエゴサバクヘビ、アイイロヘビ、キイロネズミヘビ、マダラキングヘビ、ミルクスネーク等の名が出てきます。
この中でずっこけるのが、キイロネズミヘビ。まさか自らの種名ゆえに餌のネズミに友情を感じた訳でもないでしょうが、そのネズミに背中をかじられたことがあったそうです。
この話を聞いた中で、総じて担当者が強調したことは、紫外線、直射日光の必要性でした。「かつて爬虫類は消耗品と言われた。しかしどれを見ても貴重なものばかりだ。飼育する側はそれを充分に留意しなければならない。彼らを決して消耗品と考えてはならない。」と言うことでした。しっかり胸にきざみたいと思います。
まず1部では、開館以来と過去に飼育された主なものを対比して紹介しました。裏話、逸話は、次号をお楽しみに。(松下憲行)