42号(1984年11月)4ページ
良母愚母 第1回 キジ類(いつか良母を)
現在、キンケイ、アオエリヤケイをはじめ、8種類のキジ類が飼育されていて、繁殖に導かれたのは、6種類に及びます。が、その大半は人工。ふ卵器でかえったものであり、自然ふ化は数年前のアオエリヤケイと旧熱帯鳥類館におけるパラワンコクジャク(途中で死亡)の例があるだけです。
では、愚母ばかりなのでしょうか。いいえ、そう決めつけるのは早計過ぎます。自然ふ化を妨げる何らかの問題が、大きく立ちふさがっている為と考えていいでしょう。落ちつききれない、何か不安が残る、そんな中で産卵しているような気がしてなりません。突っついて食べてしまうケースが多々あるのですから。
どうすればいい?飼育係が中に入らないのが一番かもしれません。でもそんなことをすれば飢え死にしてしまいます。では、外から餌や水を与えては?中が糞だらけでとても不潔、不衛生な状態になってしまいます。キジ類にもよくなければ、臭くて観客サービスにも問題がでてきます。
一定のスペースで飼うことのむつかしさ、母へ導くことのむつかしさ、キジ舎は如実にそれを表しています。それでも一時に比べ進歩しているといえることがあります。隠れ場です。舎内に植えてあるサンゴジュがその役割を一応果たしていることです。
かつては、獣舎内に大きな石を置いたり、植樹することは、厳しく戒められていました。観客から死角ができてしまう為です。見せる為に置くな、植えるな、でした。が、その結果は産卵しないどころか、ストレスが高じて本来の寿命すら全うさせられませんでした。「とにかく我慢した。どんなに突っつかれても知らんぷりりして、掃除して餌を与えたら去った。そしたら有精卵がなんとか取れたよ。」ヒオドシジュケイをふ卵器でながら無事にかえせた時の担当者の弁です。いろんな狭間に立たされて飼育する者のひとつの心構えと言えるでしょうか。そんな努力で、いつかキジ類の良母を生み出せるかもしれません。