43号(1985年01月)15ページ
動物園こぼればなし◎これぞファミリー
オグロワラビーのビビが、人工哺育で育てられたのはもう6年以上も前のことです。よく人馴れしていて、育児のうの中で育つ赤ん坊の姿を幾度となく見せてくれ、生態の妙をいかんなく披露。非常に有難い存在でした。
そのビビが急にグッタリ、動けなくなるほど弱ったのは8月も中旬の頃。入院させるにも、困ったのは7ヶ月余りの子がいたことです。一応離乳してはいるものの、まだまだ母親の肌が恋しい年齢です。
ままよと分けた当日、やたら暴れ回ってフェンスに当って跳ね返るわ、母親でもない子持ちのメスのそばに寄って追い回されるわ、哀れなくらいの怯えようでした。
入院したビビは、程なく死亡。母親が帰ってくるあてもなくなって、正しくみなし子になってしまいました。とある日、子の動きをよく注意して見ると、いつも一番古いメスと一緒にいるのです。最初は偶然かと思いましたが、間違いなく一緒にいるのです。ビビの母親に当たる古参メスも、意識的にかばっている風でさえありました。
それだけではありません。ビビの妹になる子持ちの若メスも、自分の子にだけでなく、みなし子にも乳を飲ませる(袋の中に顔を突っ込んで)ようになったのです。いじめなんて何処か遠い世界の出来事、みなし子は仲間に守られてしっかり育っています。これぞファミリー、血を分けた一家だと思わざるを得ません。
(飼育課員 松下憲行)