45号(1985年05月)1ページ
動物園の1年 前編
暖かい日が続きます。もう、初夏の雰囲気さえ漂わせています。萌える若葉、各種各様に乱れ咲く花々、どれも微笑んでいるようです。動物達もそんな春に持たれかかって、心地よさそうにしています。この仕事に携わって幸福を感じるのは、そんな穏やかな表情を見るひとときでしょうか。
でも、全てが全てこの暖かい春を迎えた訳ではありません。開園以来、開館以来の動物は確実に減っています。いくら感傷が麻痺しているとはいえ、それらの動物を思い出すのは辛いものです。せめてこの春のさわやかさを味わわせてやりたかった。やはりそんな気持ちは湧いてきます。
特にオランウータンのクリコは、2才余りのジュンをおいてあの世への旅立ちだっただけに、この世への未練は断ち難いものがあっただろうと、余計にそんな気持ちにかられます。あまり擬人化した見方は好きではありませんが、相手が類人猿、しかも15年以上も深く関わり付き合ったとなれば、ある程度はやむを得ないでしょうか。春に感じる一抹の寂しさです。
さて、動物園の1年。恒例のシリーズとなって4回目。これだけは“でっきぶらし”のタネとして尽きることがありません。いや一介の飼育係としてまとめるには、せん越
な気がし、重荷になることすらあります。
それでもチャレンジするのは、誰かが書きまとめなければ始まらないからです。多少の独断や偏見が入ってしまうでしょうが、200種以上もの動物がうごめきひしめき、飼育係と共に綴った1年を振り返りましょう。